第43話 四面楚歌
いゐりゃぬ国への賛美と称賛。
二十四枚の白い鷲の翼を持つ、螺鈿のような黄金の龍神に乗って、アカデミアの学長ユリイカは来た。単身である。
小柄な少女であった。わずか十四歳(イシュタルーナと同じ)である。彼女が学長になった理由は、智慧もなく学もなく、学長に相応しくない、ただの女の子だからだ。だが、そんな子はたくさんいる。だから、彼女なのである。
とは言え、紆余曲折はあった。それは『ユリイカ青龍エクスタシス』という数巻の書にまとめられていたが、今では喪われてしまった。
「おめでとう。あなたたちの勝ちよ」
「お会いできて光栄です、学長」
人はイシュタルーナが初めて顔を赤らめ、緊張するのを見た。
ユリイカは悪戯そうなくりくりした双眸で、おかしげに見ている。だが、どことなく、憂愁と暗鬱とが額を蒼く翳していた。さまざまな死と矛盾とを見て来ているからだ。
「忘れないでね、平安と健やかさが永劫であるように、希うことを。小さき者、弱く儚き者たちのことを」
「承知しています。それがあたしの空(スンニャター)の大義です」
「良かった。あなたは友だちね」
「そうです」
イシュタルーナは頬を赤らめた。
マイケル・ハンマーは地団駄踏むも、もはや手段はない。自暴自棄に走り、世界を巻き込んで破滅しようという勝手な思いから、自滅の闘いを決意した。思いを同じくするシルヴィエと連合し、マーロを巻き込んで、西北南大陸の超大国で連合し、史上空前の大世界大戦を始めた。
歴史ある家柄に生まれたヴォードの皇帝ジョニー・コークは無謀な戦いに消極的ではあったが、哲学者コートニー・トランプスの理論を吹聴され、神の嘉し血統、名誉ある市の栄光だの歴史的使命だのという言葉に身を震わせて感涙し、その思想的な影響を受け、まんまと乗ってしまった。
巨大な火焔の流れが怒涛のように逆巻き熾る。
その気運は燎原の火のごとく広がり、反いゐりゃぬ国で全世界をまとめていった。
すなわち、直轄する東大陸に於いてすらも、マイケル・ハンマーと内応し、大華厳龍國の皇族たちを中心に陰謀が蔓延り、大反乱が起こったのである。
いゐりゃぬ国の見た眼は四面楚歌の状態とであった。
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