第36話 ゴブリンに訊く

「大審問官?」

 巫女騎士が訊いた。


「魔神のような存在で、地底の最深奥部を支配していると記されています、古文書の記録によれば」

 ユリアスは厳粛な面持ちであった。イシュタルーナも深くうなずき。

「ふむ」


「わかるの、イシュタルーナ」

「いや。この世はわからないことだらけだ。『わからない』しかない」

「だよね」

 

先ほど、ガルニエがいみじくも言ったとおり、皓々と照らしていても、ところどころ深い陰翳があって、なぜか、それがこちらを見ているような気がしてならなかった。


「なあ、水の音がしないか」

 ユーグルが言うと、リュウが、

「するぜ、さっきからな」

「水と言うよりか、激流みてえだ」

 鍛冶屋がそう言うと、ファルコが、

「見てみろ、ジョン・スミス。ほうら、あそこの奥深い真っ暗がりを覘いてみりゃあ、わかる。剣の光が届いている」


 峡谷、絶壁、ここに墜ちたら、どこまでも真っ逆さまだ。

 ラフポワが震えた。

「川が流れているんだ」

「落ちたら、終わりだな。瀧になって、さらに落ちているようだ。奈落の底へまっしぐらだ。気をつけて歩けよ」


 イシュタルーナが言った。イヴァンは天があるであろう方向を仰ぎ、

「神よ、我らを憐れみ給え」


 横目で見てファルコが、

「さっさと、逝くぜ」「あゝ、逝くよ」「そうさ、去ぬろう」


 数時間歩む。  

「今日はこの辺で野営にしましょう」

 ユリアスがロネに言った。

「そうだな」


 煮炊きが始まる。

「何だか、さっきからずっと、見られているような気がして仕方がない」

「何だ、ジョン、おまえもか。俺もそうなんだ」

 ファルコのその言葉を聞き終えるまでもなく、ゾーイが立ち上がる。

「銅の騎士を連れて、巡回して来ましょう。チエフ」


「すぐに人選します」

 腕の立つ者、気が利く者等を、数十人選び、言い出してから、五分の後には出発していた。少しの騒ぎが洞窟内に響いたが、数分で鎮まる。


 ゾーイたちが百匹のゴブリンを率いて来た。

「こいつらです、俺たちをこっそり見ていた連中は。

 ちなみに、こいつらの言うには、大審問官というのは、地底の大魔王のことで、どうやら本当にいるらしいですぜ。

 どうしますか。遁(とん)ずらするか、尊顔を拝するか。その二つに一つしか思いつきませんが」


「ふ、大審問官か。いかような奴なのだろうか、ユリアス」 

 イシュタルーナは双眸を赫奕たる太陽のごとく耀かせ、訪ねた。ユリアスが穏やかな、平静な面持ちで、次のように説明する。

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