第35話 アヌグイへの洞窟
「レオヴィンチ殿、心配には及びません。この数十キロの洞窟は、言わば、大地下道です。アヌグイの山まで続いています」
ユリアスがイシュタルーナに替わって答えた。
「何と! 海峡を越えてか」
「本当か」
イシュタルーナがそれに答え、
「かつて、アヌグイ山の洞窟で、コプトエジャ古王国の物と思われる古文書が素焼きの壺に入っているのを発見したことがあった」
「うん、在ったね、祠に移動した」
ラフポワが思い出す。
「あゝ、祠にあったあれか」
ジョン・スミスが唸った。
さっさと入ろうとする巫女騎士に向かって、
「あ、イシュタルーナ様、先頭は私が行きます」
「ロネよ、太陽の剣を翳して照らす。あたしが先頭を逝こう。たとえ、魔王が出ても、立ち向かうことができるのは、あたしだけだからだ」
「じゃ、怖いけど、僕がイシュタルーナとならぶよ」
「わかった。仕方ないですね。已むを得ない」
かくして次のとおりに横にならび、進んだ。
イシュタルーナ、ラフポワ。
ロネ、ファルコ、ジョン・スミス。
ユリアスが道案内、イヴァンが相談役。ユーグル、リュウ。
ゾーイ、チエフ、アーキ、ガルニエ。
レオヴィンチ、ミハアンジェロ、ネプチュルス。
その後は、聖闘士、青銅の将、銅の騎士、鉄の兵が遵った。最後尾は、ジヴィーノという、身の丈四メートルのあの大巨漢であった。
太陽の剣を、繁縟に荘厳された鞘から抜くと、巨大な洞窟が明るく鮮明に照らし出される。イシュタルーナはもう歩き出していた。慌てて、ラフポワが続く。
「おゝ」
驚嘆すべき光景。
「素晴らしい、これは助かるな」
歩き始めて、ロネは素直に喜ぶも、ファルコは眼を丸くし、
「信じられん、凄いな、ジョン・スミス」
「いや、魂消ました。照らして初めてわかる地の底、深い深い深淵……」
ユリアスが促し、
「さあ、さあ、皆さん、気をつけて、照らされても闇ですから」
イヴァンも、「そして、魂の灯火で照らすことも忘れずに」と言って歩き始める。
「オクタヴィウス殿は、うめえこと言うな、リュウ。さあ、逝くぜ」
「真面目に聴くもんだぜ、ユーグル」
ユーグルやリュウの背を見ながら、歩き出し、
「だが、安心はできない、用心しようぜ、チエフ」
「言われなくとも、わかってます。だって、ほら、明るいですが、それでも……」
その言葉を聞いて、後に続くガルニエが、
「そうとも、あちらこちら、そこかしこ、昏い、深い陰翳が在る。ない処はない。とても深い。リアルに。まったく以て、実に」
憂鬱そうなその言葉に、巨漢のアーキは、
「おゝ、まったくだ。気味が悪いぜ。だが、それだけだ」
レオヴィンチやミハアンジェロらは無言でうなずき、
「いつか地獄の絵を画く時の参考にしよう。かくも地の底の威壓とは。凄まじきものか」
「そうしよう、生きて帰れれば」
ネプチュルスは首を振り、
「よしておくんなよ、旦那方。暢気に言う話じゃないですぜ。後の聖闘士さんや青銅の将の方々、背後はよろしく頼んますよ。さすがのあっしも背中にや眼がついてねえもんだから」
「ふふん、何か、霊的な雰囲気と言うか、空気感が違うぜ。なあ」
ユーグルが言い、リュウも大海商を振り向き、
「ほうら、山賊皇様の言うとおりさ。本当に、魔王が出そうだぜ、ネプチュルスよ」
「脅かすない、海賊皇らしくもないことを。似合わねえや」
大海商はもううんざりだという顔をしていた。
ユリアスが清ました顔で、
「いやいや、いるかもしれませんね。地下に棲むゴブリンやオークの王がいてもおかしくない。少なくとも、古文書に依れば、大審問官がいたと記録されています」
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