第34話 龍角島

 またもや囲まれた。


「真究竟の真実義よ」

 イシュタルーナが死を決し、叫ぶと、〝木〟の位階の太陽の剣は一気呵成に〝石〟の位階へと、下から上へ、地から天へと逆流、抗って遡る亢龍のごとくに翔り昇り、怖ろしいまでの勢いで、さらに激しく赫く。


「ぅ、うわ、こ、これは」

 何もせずとも、数万トンはあるかと思われる大岩が灼熱して次々と真っ赤に溶け出し、木々が黒煙を立ち昇らせ、炎上した。


「あたしたちが死すか、おまえたちが死すか、二つに一つしかない。生命を、我がうちの奥なる生命の究極を燃え上がらせるのみ、死力を尽くすのみ、それしかない」

 巫女騎士は運命と合致した者のように、冷厳な眼で睥睨する。


 もはや『屍の軍団』に勝機があろうはずもない。まるで、神と人とが闘うかのようであった。

「ぅぐぬわぁ……ぐわ、うぎゃあ」

 苦しみ死に逝くも、最後まで、「ぁぁぁああっ、聖教の仇敵め、天罰やあらん。ぅぎゃあ」

「無念、残念、無念、残念、ぅお、お、おのれーっ、イシュタルーナ」

 などと呪詛の言葉を吐く。


 巫女騎士は意にも介さず、

「最後まで救いのない奴らよ。それも又、善哉」

 特殊部隊は壊滅した。同時に、黎明となる。


 しばらくして、四メートル近い巨漢、山賊皇ユーグルが兵を率いてやって来た。

「おゝ、よくぞ、ご無事で」

「凄まじい焼け焦げの痕だ……」

「あの、先ほどの強い光は、その剣の」


 イシュタルーナは剣を正面に立てて見せる。

「そうだ。これだ。見よ。太陽の剣は一挙に〝石〟の位階に到達した。さあ、時を無駄にするな」

 ラフポワは気絶していた。


 海へ向かううちに、薄明がほんのり空を染め、微かな黎明とともに夜が明け始めると、離散した者たちが一人、二人と合流するようになる。

 出発した時には千二百二十一人いた戦士たちは、千二百十四人になっていた。生き残っていても、全員が疲労困憊、怪我人が多い。


 満身創痍、這うようにたどり着いた、早朝の碧き海。

「あゝ、さ、早くこちらへ」

 海賊皇リュウの配下の者たちが迎えに来ていた。敵の姿はなく、小舟百二十艘で龍角島へ渡る。波に揉まれながらも、束の間の休憩であった。着岸し、梯子で崖を登る。


 原生林であった。細く狭いが、長い島なので、面積はある。だが、嶮しいため、無人島であった。人は住まない。

「これが龍角島か」

「何たる原始の姿」


「逝くぞ」

 イシュタルーナが迷いなく歩き出すと、疲れ切っていた戦士ら皆驚き、

「いずこへ」

 それに対して無記(記別せず)のままにて応えず、巫女騎士は無言で山中を歩き続け、疲労も溜まる頃、一つの洞窟に至りつく。


「こんな所にも洞窟が」

 誰もが怪訝な表情の中、ただ一人ユリアスが、

「ああ、これは」


「そうだ。これこそがおまえたちの祖先が隠れた洞窟だ」

 ユリアスの表情は信じ難いと言わんばかりであったが、

「あり得ないと思っていたのですが、それでも念のため、ここに古地図を持って来てあります」


 ファルコが驚く、

「何だと! 信じられん、まさか、この事態を予想してこの洞窟の古地図を持って来ていると言うのか」

「そうです。迫害されて、ここまで来た古代の聖者たちが作った地図を。彼らは国に帰ることができませんでしたが、手記などの文献や地図などの資料は数奇な運命を経て、故国に還ったのです」

 ガルニエもゾーイも眼を丸くしている。


 イシュタルーナだけが淡々とし、

「さ、逝くぞ、龍の巣へ」

 イヴァンが問う、

「それがこの洞窟の名なのですか」

「おゝ、あまり入りたくない名だ」

 巨漢のアーキもそう言った。

「なぜ行くのですか」

 チエフが問うた。

「なぜ?だと」

「チエフの疑問は尤もです。敵に見つかったら袋の鼠です」

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