第30話 海霧
海霧が深い。沖を見ようとしても、
「何も見えないぜ」
昨晩、ゾーイの報告を受けてから、今朝、早速、沖を偵察しようとしたが、凄まじい濃霧であった。
「おまけに冷えやがるぜ」
「あゝ、まったくだ。ふぃっくしょんっ」
「大鷲将軍殿は、まだか」
「いや、来てるぜ。俺はここだ」
「おゝ、ゾルゲーノフ殿」
地に足をつけて立つと、三メートルを超える大鷲の将軍ゾルゲーノフは、
「俺に乗れ。早くしろ。誰が行く」
「俺だ」
海賊皇リュウが自ら出た。
「何と、海軍の大将が出てよいものか。おまえに万が一のことがあってみろ、いったい、何とするか」
「何を言う。おまえは大鷲族の将だ。将の背を借りてよいのは将だけだ。おまえとて、万が一のことがあってはならぬ身ぞ。おまえが死するなら、俺も死をもって責任を取るしかあるまい」
「愚かなことを。軍はどうする」
「俺の軍は、いゐりゃぬ神の海賊軍だ。俺などいなくとも、何も困らぬ」
「そうか。已むを得まい。承知した」
大鷲は飛んだ。
沖に出ても霧は深い。
「ダメだ、見えないな」
ミサイルが飛んで来た。躱すも、追尾してくる。
「まずいな」
「当然だろ、敵はレーダーで感知してる。想定の範囲内だ」
「しかし、何も見えんぞ。引き返すしかない」
「鷲の眼を以ても見えぬか」
「我が一族は梟のごとく夜目が利くが、霧では無理だな」
「降下しよう」
「バカな」
「墜ちたら、泳いで俺が半島に連れ帰る」
「ミサイルだぞ。粉も残らんわ。ふ、笑わせる。仕方あるまい」
「俺は海賊だぞ、四角四面にやってられるか」
急降下。
「見えた。船影だ。微かな灯も」
「このまま低空飛行するぞ、いいか」
「むろんだ。数えるぞ」
行けども行けども、群島の中に突っ込んだように艦隊が聳え、その列は絶えない。
「おい、これは」
見渡す限り、巨艦のシルエットで、海上に大きな都市ができたかのようであった。
「数千隻はある。航空母艦だけで」
自動装填連射銃が凄まじく連続音を響かせる。高射砲を撃つ高さではないし、そもそも艦と艦とが近過ぎて、砲の類は撃てないからであった。
「引き上げよう。これを知らせなければ、ならない。たとえ、この身が裂けて死し、魂魄だけとなったとしても」
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