第26話 正午
いゐりゃぬ国は、首都イヰリャヌグラードの大改造に着手する。宮殿を始めとする木造の建築はすべて壊され、石造建築となった。
牧歌的な街の風貌が変わる。
出来上がったものは、民間の商家などと軍施設とがならぶ、複合都市であった。瞬く間に起こり、瞬く間に終わる。三か月で聳える城壁に囲繞される城塞都市へ変貌するのであった。
輸送手段も整えられる。
街道の再整備とともに、大河パルテノスから分岐して南下する大運河が南北大街道と並行するように造営された。そして、南下の途中で、十文字を刻むように分岐し、東や西へ往く街道と並行して流れる。
いずれも大貿易港のある東・西・南の海まで接続した。
海運と繋がって、内陸への物資の輸送を容易にする。さらに、首都にまで到達する間にも、その中継地点のさまざまな場所からの物資が加わり、それとともに人も集まって大いに繁栄した。
紛争は絶え、人の往来はしやすく、物流の大氾濫、商業は殷(さか)んになり、空前の大繁栄が起こる。安定した社会は、経済活動の活性化には必須で、海外の諸国も、当面の争いを断念し、国交を結び、通商条約を締結した。以前のように、祭壇の香料の不足に悩むこともなくなる。あふれるほど輸入することも可能となった。
貨幣も付加価値の必要がなくなり、簡易化することも可能となる。むしろ、他国の通貨よりも価値があるくらいであった。
イシュタルーナは高々と宣言する。
「栄光あれ、真実は勝利である」
しかし、彼女自身はイヰリャヌートの御社を蔽うように建てられた、壮大な大神殿の奥の奥(すなわち、祠は社に蔽われ、社は神殿に蔽われ、三重構造となったのである)、幾重にも奥なる木製の塀の中の祠の一室に籠って、神に祈り、身を捧げる日々を過ごすのみとなり、ほとんど他へ行くことはなくっていた。
時には、洞窟にも籠る。
行くとしても、かつてのイノーグ村の跡地で、今は街そのものが巨大な拝殿となっているイノーグ副聖都へ、時折、下降するくらいであった。
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