第524話 余りにもお粗末

「馬鹿にすんじゃねぇぇぇええっ!! グエェっ!?」


 本当にこの馬鹿は自分に都合の悪い事は理解しようとしないのかまたもや私に殴りかかって来たので今回はその力を利用して空いている玄関から外へ吹き飛ばしてやると私も同じく外へ歩き出す。


「外ならもう少し強めに反撃しても良いよね? 家が傷付かないし」

「死ねぇぇぇえっ!!【餓狼牙】」

「すぅー……ハッ!」


 この馬鹿は何をされたか未だ理解できていない様ではあるが自分が突き飛ばされた事は理解し、女性に突き飛ばされたという事が彼のプライドを傷つけたのかみるみる馬鹿の毛が逆立ちスキル【餓狼牙】を感情のままに放ってくる。


 しかし、その餓狼牙は余りにもお粗末なものであった。


 そのスキル【餓狼牙】を私は手刀で消し去る。


 確かにお粗末なスキルではあるのだが一般人からすれば腐ってもBランクの冒険者、しかも獣人が放つスキルはそれだけで脅威であり下手すれば死ぬ事だってあるのだ。


「あなた、今何をやったのか分かっているのでしょうね?」

「あ、いや……その…ちょっと」

「ちょっと何?」

「いやー……ははは」


 そしてこの馬鹿にとっては咄嗟に使ってしまうほどの得意技であったのだろう。


 その技がスキルも何も使用される事もなく片手で払い消された事実にやっと私の強さと自分の強さの差が分かったのであろう。


 私がこの馬鹿がやった事を問い詰めると先程までの勢いは消え去りヘラヘラと乾いた笑いで取り繕い始める。


「とりあえず私もあなたに餓狼牙を放っても貴方は文句は言わないよね?」

「お、俺が悪かったっ!! すまねぇっ!!」


 その、相手の性別や実力によって態度を変える奴だと知ってはいてもこうも掌を返されて溜まりに溜まっている怒りの堪忍袋へ更にドスンと怒りが追加される。


 当然その怒りの矛先は馬鹿へ向ける。


 その瞬間その馬鹿はプライドも何もかもをかなぐり捨てて土下座し頭を地面に擦り付けて慈悲を請い始め、その姿を目にし溜まりに溜まっていた怒りは霧散してしまう。


「あっそ。もうアンタには興味も失せたから私の前から消え去りなさ───」

「おとといきやがれですよこのクソゴミ虫っ!!」

「あぎゃっ!?」

「ぐべっ!?」

「えぇー……」

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