第500話最後の切り札

 あの攻撃がこのハイエルフの王にとって最後の切り札、最高最大の攻撃だったのだろう。


 目の前でいとも簡単に見破り、防がれた光景に膝から崩れて落ち最早その顔に先程までの戦意は微塵も感じられない。


 そうなってしまうハイエルフの王の気持ちを─マリアンヌはクロ様と一緒に旅し始めたばかりの、無駄に自身とプライドだけは高かった昔の自分が初めてクロ様の実力の一端を側で感じたあの時を思い出し理解できてしまう。


 クロ様曰く「天狗になった鼻を折られる」そして「井の中の蛙」という言葉も同時に思い出し少し懐かしい気分に浸る。


 そんな時、サイコロが三個転がる音がお姉ちゃんの方から聞こえてくる。


 振り向くと鉄の翼を弧を描く様に前に広げ、不敵な笑みを浮かべているお姉ちゃんの姿が目に入ってくる。


 サイコロの目は六・六・六である。


「こんな城があるからいけないのかな? あなたみたいな王が支配すると言うのならばいっそ灰にしてあげましょうね」


 うふふと笑い、微笑むその様は武装神機の翼を広げた姿に、最大出力からなる魔術を行使する際のマナのきらめき、その全てがまるで神話のワンシーンであるかの如くお姉ちゃんを正に美の化身と化していた。


「美しい……」


 その美しさにハイエルフの王はお姉ちゃんがハイダークエルフだという事も忘れて思わずこぼしてしまう。


 それはこのハイエルフの王に限ったことでは無く、ハイエルフの騎士にハイエルフ糞強姦魔ギルドマスター、マールにエリとここにいるエルフたちがハイエルフの王と同じ様に言葉をこぼしてその美しさに呆け、中にはあまりの美しさに涙を流す者まで見える。


 そして次の瞬間城だけが綺麗に消失し、消失した城の光に包まれたお姉ちゃんが国民中に見せ付けるかの如く翼を広げ天空に佇んでいた。


 その光は遠く離れた場所からでも目視できる程であり、またその光景は想像を絶する美しさであった。



◇◆◆◇



 俺は今頭を抱えそうになっている。


 その原因は俺を目にした途端に揃ったようにズラリと頭を垂れ跪くハイダークエルフとダークエルフの女性達である。


 その中で一人、ハイダークエルフであろう女性が頭を上げると意を決したかの様な視線を俺に向け、そして口を開く。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る