第489話名前

 出会うエルフ達はわたくしを見ると尊敬と憧れ、敬愛や羨望の眼差しを向けて見つめて来るのだがお姉ちゃんに視線を移すとされらは侮蔑のこもった目線を向けて来る。その目には時に蔑み、侮り、馬鹿にした感情をその目に宿していた。


 そしてこの街でわたくしの機嫌を最も悪くさせる存在、一目見るだけで人並みの生活をさせて貰えていない事が分かる服装と身体つきのダークエルフの奴隷の存在が首に鎖を繋がれた状態でそこかしこで見えるのである。


 ここのエルフは畜生にも劣る。


 わたくしがそう判断するのに長い時間は必要無かった。


「王との謁見の準備をし、して来ますので……とりあえずここでお、お待ちになって下さい」


 街の中央にそびえ立つ白亜の城、その中の一室に案内され少し待つ様にハイエルフ糞強姦魔ギルドマスターにいわれるのだが、ハイダークエルフであるお姉ちゃんに敬語を使うのが彼のプライドを傷つけているのか苦汁を我慢するかの表情で案内し、おそらく王の所へと足早に消えて行く。


 そしてわたくしとお姉ちゃんは案内された部屋に備え付けられている高級そうなソファーへ二人並んで腰掛ける。


 机を挟んだその対面には糞エルフギルド受け嬢とエルフ金魚糞がちょこんと座る。


「その……マリアンヌ様は──」

「名前」

「──なんで……名前?」

「あなた、随分と前からわたくしの後ろを金魚の糞よろしくついて来ていたのだけれど名前を名乗った事は一度たりとも無いのですわね……貴女……そして隣に座る貴女も、それを失礼な事と思わないのですか?もし思わないのでしたら続けて構いませんわ。文化が違えば価値観も違いますもの」


 ソファーに座って何分経ったのだろうか。


 もしかしたら何十分かもしれない。


 その沈黙を最初に破ったのはエルフ金魚の糞であった。


 しかし彼女の言葉はわたくしの言葉、価値観をやたら強調した言葉によって遮られてしまう。


「わ、私は……私の名前はエリ・ミューティアです、……その……名乗るのが遅れてしまいごめんなんさいっ!」


 エリ・ミューティアと名乗ったエルフの少女は次に立ったまま勢いよく頭を下げる。


 その謝罪にはしっかりと謝罪の気持ちがこもっている事がうかがえる。


 深く深く下げた頭はなおも深く下げられ、その肩は心なしか震えている。

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