第386話深淵のネズミ


「この深淵のネズミは攻撃力も防御力も極端に低い代わりに実にネズミらしい能力があってな、一匹でもいる限り鼠算の如く増えて行く能力を持っているんだよ。闇の召喚魔術段位六【深淵の守護者】召喚コスト、生贄五体を深淵のネズミで消費する」


 そこに現れたのはまさに化け物。


 身の丈二メートルは有りそうな巨躯に腐敗し今にも悪臭が漂って来そうな肉体を付け、まるで優秀な執事であるかの如く綺麗な姿勢で佇んでいる姿は異様としか言いようが無い。


 目と口は糸の代わりに何かの皮で縫われ、手には巨大なハンマーを持っておりそれがより一層不気味さに拍車をかけている。


「ひ、光の召喚魔術段位四【能天使ラファエル】」


 しかし相手が何をやって来ようと能天使ラファエルまで召喚出来た私の敵では無いとコーネリアは思う。


 唾液が緊張で乾き、張り付いた喉で何とか能天使ラファエルを召喚する事に成功したコーネリアはこの戦いに勝機を見出せ、安堵のため息を吐く。


 この能天使ラファエルはそれ一体で百の兵士と同等の強さとされている程の天使である。


 図体だけがでかい深淵の守護者とか言うモンスターさえ倒してしまえば後は勝利に向けて慎重にコマを進めて行けば良いだろう。


「深淵の守護者の能力で深淵のネズミを一体生贄に捧げる。能天使ラファエルを対象にし、それを破壊する」

「………は?」


 しかし、コーネリアが召喚した能天使ラファエルはたかがネズミ一匹の生贄で実に呆気なく消滅してしまう。


 その余りにも呆気ない結末にコーネリアは何とも間抜けな声を発してしまう。


「どんなイカサマをした!? 能天使ラファエルがたかがネズミ一匹と同等の命である筈がない! いや、あってはならない!」

「いや、能天使ラファエルであっても所詮召喚モンスターだろう? 大げさな。とりあえず深淵のネズミを二体生贄に捧げてお前が支配下に置いている天使を全て破壊する」


 何の躊躇いも無くクロが深淵のネズミを生贄に捧げ、コーネリアが召喚した天使をいとも簡単に破壊して行く。


 まるで商店に陳列された商品を名指しで買うかの様な軽いクロの声音から一体誰が能天使ラファエルを含む三体の天使がネズミ三匹により破壊されたと信じるであろう。


 コーネリアにとって目の前で起きる出来事はまさに悪夢の何物でもない。

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