第290話戦場に女連れてデート気分なら帰れ

緊張するなという方が無理であろう。


「戦況はどうなっている?」

「はっ!只今前線部隊が交戦中でありますが二時間ほど前から魔獣の数が徐々にではありますが増えて来ていると思われます!」


 そんな中、真っ赤に燃えるような美しい髪を纏め上げた、これまた美しい女性が一人の兵士に戦況を聞き出すと「……芳しく無いな」と呟き渓谷の先を睨みつける。


 彼女はいつも近寄りがたい雰囲気を出しているのだが今日はまた一段と強く近寄りがたい雰囲気を出しているのが手に取るようように分かるほど出ている。


「クロ………今日が約束の一ヶ月……だぞ?覚えているのだろうな?」

「も、私、我慢、出来ません!!」

「流石に一ヶ月は長かったわね、メアにミイア」


 その近寄りがたい雰囲気を倍増させている原因は、今回の氾濫が大規模になると予想され学園都市から派遣して貰った冒険者であろう事は間違いない。


「おいお前!! いい加減にしろ! 幾ら何でも緊張感が無さすぎるぞ! 戦場に女連れてデート気分なら帰れ!」


 そしてやはり今回の氾濫部隊を指揮する隊長でもあるフレイム・フィアンマ隊長が切れた。


 腰まで伸びている真っ赤に燃えるような赤髪を逆立て、無意識に垂れ流し出した魔力により周囲の温度を上げていく。


「どうしたのですかいきなり。叫び出したと思ったら私の夫であるクロの批判ですか?」

「どうかしているのはお前だサラ・ヴィステン! 何が夫だ! 剣帝のお前がいるパーティーと聞いたから安心していたのだが、冒険者から少し離れただけでどれだけ腑抜けになっているのだ!?」


 そして激昂しているフレイム隊長に、隊長の知り合いだというサラ・ヴィステンという女性が火に油ではなくガソリンをぶち撒いていく。


 隊長の髪の毛は、周囲の温度が更に上がった事により発生した上昇気流で重力を無視して天へと伸びている。


 魔力の余波でこれなのだ。トリプルSの強さを垣間見て不謹慎ながらも頼もしいと一兵士に過ぎない周囲の者達は思ってしまう。


「まあまあ、落ち着いてください。 こちらも配慮に欠けていたのは謝りますので」

「黙れ! 雑魚が口を挟むな! どうせ剣帝サラ・ヴィステンを騙して付け入って………」



 収まる気配を見せず激昂している隊長に対し、更に件の男性が燃料を投下し更に周囲の温度を上昇させるのだが、しかし隊長の口から男性を蔑む言葉が出始めた時周囲の空気は一変し、その空気を感じ取り隊長は言葉を止める。

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