第277話彼女達こそが経験不足ゆえの朴念仁

 もう嬉しさが爆発して泣きじゃくってしまい自分ですら何を言っているか分からないのだが、クロとの結婚を受け入れる言葉を返すとそのままクロに感情のままに飛びつく様に抱きつく。


「全く、ほら……鼻水出てる。可愛い顔が台無しじゃないか」

「み、みないでぇぇぇえ!!」


 そんな私の鼻をクロがハンカチで優しく拭いてくれ、それに赤子のように甘えされるがまま鼻水を拭かれる。


 人生の大事な瞬間が台無しなのだがこれも自分らしいと思う。


 その晩、自分でもびっくりしてしまうほど女の子のような反応で喘いでしまい気持ちよすぎてその声を恥しさから必死に抑えようとすればするほど可愛らしいい喘ぎ声がキンバリーの口から奏でられ、クロの嗜虐心をより一層刺激していくのであった。


翌日、幸せいっぱいと言った表情をするキンバリーの左手薬指には銀のリングが輝いていた。


◇◆◆◇



 衣服や装身具が所狭しと散らばり足の踏み場も無い部屋でターニャ・カルロスは迷っていた。


 どの服を着て着飾ったとしてもあのクロの事である。奇抜なファッションで無ければ普通に褒めてくれる事は容易に想像できるのだがそれはそれこれはこれである。


 一番似合うコーディネートでクロとデートしたいと思うのは仕方のない事だろう。


 朴念仁の癖に女性の変化に聡く髪を少し切っただけで気付き褒めてくれるんだから………。


 服を選び姿見で確認しつつも毛先を少し切った時の事を思い出しにへらとだらしない顔をしてしまう。


 クロ自身朴念仁ではなく彼女達の気持ちに気付いてはいたもののただ単に踏ん切りが付かず結果鈍感な風を装っていただけなのだがそれに気づけるほど恋愛経験が多い女性はクロの周りには居なかった。


 むしろ彼女達こそが経験不足ゆえの朴念仁であったことに気づけないでいる。


「何を着て行っても同じならあんたのその胸を強調するコーディネートにしなさい」

「…………母さん…っ!? かかか勝手に入って来ないでよ!!」

「今日あんたが牛の世話係でしょうが! 呼んでも返事はしないし部屋に籠って何時間経つと思っているのよ!?」

「う……うるさい!!」

「いい歳した行き遅れが悩んでも仕方ないわよ。 まったく十代半ばなら未だしも二十歳にもなってみっともない」

「いいから出てって!!」

「おーこわ」



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