第163話死にたくない

「………捕まえた。どうですか?……羽をもがれた羽虫になった気分は……」

「嫌……死にたくない……死にたくない……嫌だ……」


 楓に肩を掴まれても尚生きたいと口にするルルなのだが逃げようとはせず逆に楓に悲願しているかの様である。


 そんなルルを前に無表情睨める楓なのだが、ほんの一瞬だけ微笑んだ様に見えたかと思うと無表情で【解除】を二回詠唱し、先ほどエンチャントした【禁止令】二つを破壊し今一度禁止令を詠唱する。


「【禁止令】、対象を【禁止令】」

「………【禁止令】の効果が【解除】で破壊された………?……………か、【解除】」


 そしてその光景を目の当たりにしたルルは抵抗する気力を楓に完膚無きまでに叩き潰されているからか魔術の詠唱には覇気は無く、だが一縷の望みを求めて先ほど楓がやった様に【解除】で【禁止令】を破壊しようとする。


 しかし、ルルの魔術が完璧に詠唱されても尚、ルルの眼に先ほどまで湧き出ていた禍々しい魔力は戻って来る気配も、【禁止令】が破壊された感触も無く、ルルは抵抗する気力を完全に無くし、項垂れる。


「【禁止令】で【禁止令】を使用出来なくし……それにより先に発動した【禁止令】もろとも【禁止令】は……この世界から取り除かれる……だからこの世界から取り除かれた【禁止令】を【解除】で破壊する事は出来ない………」


 禁止令は対象にしたスキルか魔術を使用出来なくする魔術で、破壊されればまた使用できるようになるのだが、禁止令で禁止令を使用出来なくし、先にフィールドにエンチャントさせた禁止令も消え去るのだが破壊されたのではないため先に対象にして消したスキルや能力は使用できないまま、禁止令そのものも消えて無くなるのだから解除の対象に出来るわけもなくルルの詠唱した魔術はスカ振りに終わったという事だ。


 ギルティ・ブラットでは割とポピュラーなコンボではあるものの、その為に対象を選択できる禁止令は公式の大会では使用禁止とされる程凶悪な魔術でもあったりする。


 そして楓の言葉の意味を理解する事が出来ないのか、またはその気力すら無いのか、ルルは虚ろな眼を楓に向けると全てを諦めた様な表情で笑い、次の瞬間ルルの身体が光だし、苦しみ悶え始める。


 楓によりルルの眼の能力を消された反動で、ルルはルルとしての身体を維持出来ず、積み木崩しの要領で消滅しようとしているのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る