第60話依存していたのだろう
ぽつりぽつりと喋り続けるアーシェは魔王という風貌は面影すら無くなり、ただのか弱い魔族の女性にしか見えない。
しかしクロにとってはそんな事よりもアーシェが話す内容に、アーシェにかける言葉も見つけられないほど追い詰められていた。
「そして私の世界はお兄ちゃんだけになったんだけど、兄が結婚してすぐお兄ちゃんまで結婚した。 ギルティ・ブラッドでの会話もこの頃から話の内容は奥さんの話が中心になり、お兄ちゃんに恋心を抱いていた私は、彼女が出来ていた事すら教えてもらえなかった事実を知り居場所なんて初めから無かったんだと思い知らされた。 だから」
違う!と声を上げたかった。ちゃんとお前の居場所はあった!と叫びたかった。
しかし、アーシェが求める居場所と俺が用意していた居場所が違う事ぐらいアーシェの、俺を見つめる目を見れば口で言われるよりも分かってしまう。
アーシェの想いが恋だとは思わない。 だけどアーシェは人肌や優しさに飢えてクロに依存していたのだろう。
少なくともそれが恋か依存か分からなくなるぐらいには。
「だからお兄ちゃんに借金の保証人になってもらい自殺したの」
そういうアーシェの顔は先ほどまで泣いていたとは思えないほどの笑顔を作っていた。
その表情からは恍惚な表情を浮かべ、笑顔と相まって狂気にすら感じるほどである。
「いや、だからそれで自殺する意味が分からないんだが…」
そして彼女の自殺理由が未だに見えてこないというか、生前の環境が嫌で自殺したのではなく、何かの目的を持って自殺したように聞こえるのは気のせいなのだろうか?しかも俺絡みで。
「そう?簡単なことだよ?」
「いや、まったく分からないから」
「そう。 だったらもっと分かりやすく教えてあげるね?」
そう言うとアーシェは未だに理解できていないクロに、とても嬉しそうに説明し始める。
「私が死んだら私が作った借金をお兄ちゃんが払わなければならなくなるでしょ? そしたら私も晴れてお兄ちゃんの家族になれるからだよ」
あれ?日本人だったはずなのに日本語が理解できないだと?
アーシェの説明に余計に意味がわからなくなってくるクロ。
いつの間に我が日本は『借金して自殺したら保証人の家族になれる』という制度ができたのだろうか?
「あー、まだ分かってない顔してる! 私が死んだことで出来た借金、これいわば私の生まれ変わりなわけ。 その借金をお兄ちゃんが払わなくちゃいけなくなったという事は、払い終えるまでお兄ちゃんは私の面倒を見なくちゃいけないの。 それってもうお兄ちゃんと一心同体のかけがえのないパートナーであり、家族だよー! それに気がついた私天才! もう片っ端から借金しまくったんだよ?」
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