第59話私の1日の楽しみ
そしてクロはのびたアーゲノーツからアーシェへと視線を向ける。
「一発目は前世で、二発目は今の世界でお前に理不尽な迷惑をかけられた事に対するビンタだ。 これでもう全部チャラにしてやるよ」
最初クロが言っている事が理解出来ていなかったアーシェだが、理解するにつれ目に涙を溜めそれでも泣かないと我慢しているのがわかる。
そんな仕草ひとつひとつが、目の前の魔王が橘明日香なんだと証明しているかのようである。
「…………許してくれるの?」
「ああ。 過ぎた事をいつまでも考えていても仕方ない。 だから前世の件と今回の件はこれでチャラだ」
「どうして…………?」
「俺はお前の借金の事よりもお前が自殺してしまうほど追い詰められていた事に気付かなかった事を悔やんで申し訳無く思っていたんだ。 それに、良くも悪くもお前は民にとって善き魔王としてあろうとしている事はこの世界の魔族達を見ていれば伝わってくる」
そういうとクロは真剣な顔をして本来聞きたかった事を問いかける。
「その代わり教えてくれないか? 何で自殺なんかしたんだ?」
クロがそう言うとアーシェは悩んだ末語り出す。
「実は私、中学の時から学校で苛められてて友達もいなかったんだ。 でも私には実の兄もいたし、お兄ちゃんもいたから平気だった」
彼女の口から語られる真実にクロは心臓を掴まれた感覚に陥る。何故気付かなかったのか?どうせ明日香の事だ。俺達に心配かけまいと気丈に振る舞っていたのだろう。
あの時ちゃんと明日香と接していれば気付けたのかもしれない。
しかし明日香が学生の頃、あの頃の俺は初めて彼女が出来たばかりで明日香と遊ぶ回数が日に日に減りはじめていた頃である。
「その苛めは高校生になっても終わらなくて、でもたまに会えるお兄ちゃんと遊ぶだけでボロボロになった私の心は回復できたし、兄からお兄ちゃんがギルティ・ブラッドってゲームをやっているって知って、他人のふりしてお兄ちゃんに近づき、普段私には話さないような会話が出来るようになって…………それが私の1日の楽しみになったんだ」
アーシェは話している内に橘明日香だった時の記憶が鮮明に甦って来たのか小さく震えだし静かに涙を流し始めるのだが、アーシェは喋るのを止めず喋り続ける。
「そのお陰かどうか知らないけどいつも笑顔でいる事ができるようになった時、気が付いたら苛めは終わってたんだけど、長年続いた苛めのせいで私には友達が一人もいなくなっていて、兄とお兄ちゃんだけが私の世界で私の全てになっていた…………でも……私が高校卒業して無事に社会人になった時兄が結婚して県外に引っ越していった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます