メリーさんの怪奇事情 メリーさん、殺し屋のターゲットにされる
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私、メリーさん。
「あなたのすぐ後ろにいるの」とかいって人々を脅かすようなおっかない存在よ。
でも今私がめっちゃ、がくがくぶるぶるしてるの。
すっごく恐怖してるのっ。
何よっ。笑わないでよっ。
私にだって怖い存在がいるのよっ。
「うふふっ、メリーさん。どこに隠れたのかしらー」
今なにしてるかって?
資材運搬用のおっきな箱にかくれて息をひそめているわっ。
それもこれも、あの殺し屋から逃れるためよっ。
どうして脅かす側の私が、殺し屋におびえなくちゃならないのよっ。
こんなことになるなら、あんなやつターゲットにしなきゃよかったわ。
目の前で、「一瞬で三メートル移動できる」力を見せつけるんじゃなかった。
そこで、殺し屋は「張り合いがありそうな悪い子見ーつけた」みたいな目になって、逆ロックオンされちゃったのよね。
「うふふ、命のやり取り、たーのしーい」
楽しくなぁぁぁい!
ハイになっている殺し屋から逃れるために、引き続き息をひそめるわっ。
けれど。
箱のふたがぱかっ。
「みいぃぃつけたぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
どこに隠れても見つかっちゃうのよねっ。
「メリーさんの臭い、すんすん」
どういう嗅覚!?
私が追いかける側なのに、なんでそっちが追いかけてくるの!
ねぇ、おかしいじゃない。
私は泣く子も大泣きするメリーさんなのに!
ぜぇ、ぜぇ。
あの後、死ぬ気で逃げたわ。そもそも生きてないけど。
とりあえず、あの殺し屋はまけたみたいね。
もう、別のターゲットにきりかえましょ。
あんな奴、脅かせる気がしないもの。
そうね。
今度はもっと楽な奴がいいわ。
無駄に好戦的じゃなくて、無駄に勘が良くなくて、無駄に運動神経が良くない奴。
あと、常識人である奴なのも必須条件よ!
息が整うのを待っていたらちょうどターゲットになりそうな奴がいたわ。
暗い顔で俯きながら、通りを歩いているわ。
ランドセルを背負った小学生。
虐められでもしたのかしら。
それとも、テストの点が悪かったとか。
近くに学校がるけど、いつもの下校時刻よりだいぶ早いだから、体調不良で早退とかしたのかもしれないわね。
一人ぼっちで下校する小学生。
うふふっ。
いい獲物じゃない。
私はさっそく、ゴミ捨て場の近くを通る小学生に、私の分身であるメリーさん人形を拾ってもら事にした。
ポトッ。
ほら、お人形さんよ。
かわいいお人形さん。
拾いなさい!
って、なんでスルーするのよ!
考え事に夢中で気が付かなかったみたい。
仕方がないわ!
もう一度よ。
ポトッ。
って、何でまたスルーするのよ!
はぁ、駄目ね。
周りの事が何も見えてないみたい。
この子もターゲットにするにはふさわしくないわ。
なんで私は、出会ったら即死系のお化けにならなかったのかしら。
こんな面倒くさい手順を踏まなくちゃいけないなんて。
ため息をついていると、視界の隅に猛スピードで走ってくるトラックが見えた。
えっ。
あんなスピードで走ったら事故が起っちゃうかもしれないじゃない!
運転手は何をやってるのよ。
運転席を見ると運転手は、ぎゃぁぁぁ!
気絶してるぅぅぅ!
あっ、暴走トラックがさっき通り過ぎた小学生の方に向かっていてるわ!
ちょっ、気づいて!
そのままじゃ、トラックにひかれちゃうわよ!
でも、落ち込んでいる男の子は気が付かない。
あぁぁぁ!
もう!
今日はほんとーに厄日だわ!
私事態が災厄みたいなもんだけどっ!
「私のノルマ(の予定だった)を人に渡してたまるもんですかっ」
私は一瞬で三メートルずつ移動していって、今まさにトラックの餌食になろうとしていた子を突き飛ばした。
ふぅっ、これで一安心。
その代わり私はぶつかっちゃうけど、人じゃないから死なないし。
痛覚あるから、死ぬほど痛いけどっ!
そしたらその場に、「うふふっ、こんな所にいたのねっ」と殺し屋が登場!
叫び声を聞きつけてやってきたようだ。
もっとやばいのきたぁぁぁ!
でもその殺し屋は「あらあら」みたいな顔で状況を察したら、トラックにとりついて窓を割り、運転手を引きずり出してしまった。
トラックから離れる際、殺し屋がハンドルの向きを変える。
無人のトラックはそのまま暴走して、進路を変えて、どこかの電柱にどっかん。
え?
今なにが起こったの?
殺し屋は、トラックから引きずりだした運転士のおじさんをポイっとそこら辺に捨てて、私を見て微笑んだのちどこかへ去って行ってしまった。
でもその表情がなんとなく悲しそうに見えたのは、目の錯覚だろうか。
とりあえず私は、
「「たっ、助かった?」」
助けた小学生と同じ言葉を発していた。
メリーさん、殺し屋に命を救われる。生きてないけど。
一体どういう風のふきまわしなのかしら。
私は殺し屋の女。
人を殺して、生計を立てているわ。
この世の中は綺麗な事だけでできているわけではないから、悲しいけど私のような女も必要なのね。
幸いにも私には、人を殺す才能があったから、順調に殺し屋家業を続けているわ。
でも、こんな私にもう初心な頃はあったのよ。
初めて人を殺した時は、手の震えがとまらなかったわ。
けど、手にかけたそいつは悪い奴だったから、同情なんかではないわね。
ただ自分が汚れた存在になってしまった事がショックだったの。
でも、悪い奴を殺していけば、その事を忘れられていられたわ。
私は、平気な顔で犯罪に手をそめる悪い奴を殺す事で、自分の汚れに目をつむってきたの。
そんな時、彼女に出会った。
メリーさんに。
あんな風に心躍る存在に会うのは何年ぶりかしら。
怪異って、人を脅かす絶対の悪よね。
まちがいなく殺しても良い存在。
私は嬉しかったわ。
悪人を手にかけるとき、いつもこの断罪が間違っていないか怯えていたけれど、メリーさんに対してだけは悩まずにすむんだもの。
だから、私は彼女を狙っていたのだけど。
メリーさんが小学生の子供を助けているのをみて、ショックを受けてしまったの。
怪異って、お化けって、絶対の悪じゃないのかしら。
それは今度会ったときに分かるかしら。
「うふふ、また会いましょうねメリーさん」
「ひぃっ」
ぞくっ。
「どっ、どうしていきなり鳥肌がっ立つのよっ」
メリーさんの怪奇事情 メリーさん、殺し屋のターゲットにされる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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