メリーさんの怪奇事情 メリーさん、意図せず人を救ってしまう

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私、メリーさん。


 だんだん、人に近づいていって、最後に「あなたの後ろにいるの」って脅かすお仕事をしているわ。


 でも、最近は信じてくれる人が少なくて困っているのよね。


 脅かしても、ただのいたずらかなんかかと思われちゃう。


 それどころか、迷子だとか思われて警察に連れていかれそうになる事だってあるわ。


 だからそういう事が無いように、精神的に参っている人をターゲットにしたんだけど、「俺なんか死んでしまえばいんだっ」参りすぎていた。


 私が近づいて行ってるって何度もスマホに連絡入れたのに出てくれないし。


 脅かそうとすらできないじゃない。


 仕方ないから、死ぬのを邪魔してやったけど、今度はどこからかきたおばさんとお話に夢中。


 いつになったら私の存在に気が付いてくれるのよっ!


 なんて思ってたらやっとおばさんが帰ったみたい。


 どこかすっきりした顔のターゲットがスマホを確認する。


 やった。これで「私メリーさん。今、あなたの建物の前にいるの」っていうメールが届く。


 これで段々近づけるわね。


 なんて思ってたら、「メリーさんっ。ううっ、ありがとうっ」なんて泣き出した。


 ええっ。


 ちょっ。


 どうして泣くのよ。


「メリーさんのおかげで、俺は一人じゃないって気が付くことができたよ」


 いやいや。人助けじゃないんですけど、ただ脅かしたかっただけなんですけど。


「メリーさん、君にお礼がしたい!」


 しかもなんか歓迎会するノリで準備し始めたんだけど。


 この人もともと陽キャだったの?


 パーティーピーポーだったの?


 友達集めてキャッキャするのが好きだったの?


 妙に前向きで、手慣れた様子で準備するターゲットを前に私は脅かすのを諦めた。


 歓迎されるメリーさんなんて、聞いた事ないわよ!

 そんな万全に待ち構えられてるとこ、いくわけないでしょっ!






 暗い部屋の中で膝をかかえて、一日中すごす。

 窓の向こうからは太陽の光が差し込んできていたけれど、外に出る気にはなれなかった。


 俺はずっとこうだ。

 ここ最近、どころではなく軽く一年くらいは。


 ほとほと嫌気がさしてきたので、そろそのこの世にさよならをしようと思っていた。


 昔はこんなんじゃなかった。

 部屋に引きこもったりせず、太陽の下で他の人達と触れ合いながら楽しくすごしていた。


 けれど、いつしか人の視線が気になり始めた。


 ちょうど嫌な事が重なった時期だったから、余計そういうのが気になったのだ。


『誰だよ、くせぇな。この汗かきデブ』


『ちょっと、キモイから近寄らないでくれる』


『ぶっさいくな顔しやがって、気分が悪くなろだろうが。視界に入るんじゃねぇよ』


 俺が何したって言うんだ。


 どうしてそんな誹謗中傷をされなくちゃならない。


 とうとう限界にきた俺は、窓を開け放って、ベランダの柵を飛び越えようとした。


 それは衝動的な行動だった。


 ここは、マンションの八階。


 いくらデブで肉厚な体をしていても、きっと飛び降りれば一思いに死ねるはずだ。


 しかし、「そうはさせないのっ」という幻聴が聞こえてきたとたん。


 何かが俺の顔めがけて飛んできた。


 それは人形だった。


「何だこれ」


 俺は、それをベランダから投げ捨てるが、人形は地面に落ちる前に消えてしまった。


 一体何だったのだろう。


 幻覚かと思った。


 気がそがれた俺は、すごすごと部屋の中に戻る事にした。


 唐突な出来事があったせいか気が付くと、さっきまでの嫌な感情が、一時的にだか消えていた。







 何時間か眠っていたようだ。


 スマホも確認せずに、俺は寝起きに死にたい気持ちになった。


 朝は嫌いだ。


 始めるべき事が何もない俺にとっては地獄の時間にすぎない。


 だから俺は、部屋を飛び出して、近くの橋へと向かった。


 昨日はよく分からない人形に邪魔されたが、今日はそうはいかない。


 きっとあれは、マンションの上階の住人が投げた物が偶然当たったのだろう。


 気質の荒い人が上に住んでいるので、よく物が落ちてくるのだ。


 騒音をだしたり、暴れたりするので、下の階である俺はいい迷惑だ。


 でも、今日は大丈夫だ。何かに邪魔される事はない。


 俺は意を決して、橋の手すりから身を乗り出す。


 しかし「死んだら、ノルマ達成できないじゃないの!」という声と共に、どこからか駆けつけてきた警察官がおれを羽交い絞めにしてしまった。


 何でもその警察官は、偶然近くを通りかかった時に女の子に呼び止められて、俺の事を教えてもらったとか。


 また、偶然助かってしまった。


 俺は、運命の神を呪った。


 なぜ、死なせてくれないのだ。


 俺なんか、生きていてもしょうがないのに。







 今度は睡眠薬をのむことにした。


 医者なんて信用できないけれど、眠れないんですと言って見てもらった。


 一応嘘ではないのであっさり信じてもらえたようだ。


 数日分の薬を処方してもえた。


 薬をまとめて飲もうとした時に、さいきんはめっきり鳴らなくなったスマホが鳴ったけれど、俺は無視した。


 これでやっと死ねる。そう思った時。


 扉が思いっきり開いた。


「部屋から煙が出ている! 大丈夫ですか!」


 考え事でもしていたのだろうか。


 まったく料理をしたおぼえがないのに、厨房のコンロから火が噴いていた。


 しかも、近くの窓が開けっぱなしになっている。


 煙がもうもうと発生して、窓から外に出ていたようだ。


 また、死に損なってしまった。


 身の回りでおかしな事が色々起こったせいだろう。


 離れて暮らす親に連絡が言ったようだ。


 それで、おふくろがやってきて、「困った時は相談しなさいっていったでしょう!」としこたま叱れらた。


 味方がないと悩んでいたけれど、離れた所に俺の事を心配してくれる人はいたのだ。


 おふくろに怒られている時に「ふぅ、これでやっと脅かせるわね!」という声がどこからか聞こえたような気がしたが、空耳だろう。



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メリーさんの怪奇事情 メリーさん、意図せず人を救ってしまう 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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