第106話 おバカさんだモンね
「ちょっと……ライムはん、うちらのチーム名ってなんでアリンスの? 必殺技の時にはチーム名を冠するのが通例なのではアリせんか?」
「ペン子! 今それどころじゃやないでしょ!」
「トロピカルジュ~す!
「なんか魚臭いですぅ!」
「ナシ・ゴレン・ジャーがいいワン!」
「あんた! ただお腹減っただけでしょう!」
という事で、今だチーム名が決まっていない五人であった。
色々なブロックに割れたテコイの体。
黒い霧による再生はもはや期待できない。
だが、まだ動く。
切られた体が、互いに互いを支え合いながら絶妙なバランスでごそごそと動く。
さすがは元ゴキブリ。
このような状態になっても生きているとは。
しかも、なんと、切断面に白い液体が滲みだすと、徐々に徐々にその裂け目を埋めていく。
どうやら、テコイは、自ら自己再生を図っているようなのだ。
なんと、しぶとい……
ヒイロは、アリエーヌの手を取った。
「アリエーヌ! ここで決めるぞ!」
「えっ?」
突然のことにどぎまぎとするアリエーヌ。
「今の俺は魔法回路が焼き切れて、強力な魔法が使えない」
「だったら、ワラワが……」
「お前は、初級魔法しか使えないだろうが!」
ヒイロは、自分の手のひらをアリエーヌの手の甲に乗せて指を絡ませた。
「だから、お前の魔法回路を使って、今から俺が究極魔法を詠唱する!」
既に、そんな言葉すら聞こえていない様子のアリエーヌ。
頬を赤らめながら、ヒイロの指を振り払った。
――なぜ……?
ヒイロは一瞬、固まった。
ここでテコイを仕留めなければ、次はない。
あのローブの男が意識を取り戻せば、また黒い霧で復活してしまうのだ。
それからでは遅い!
アリエーヌに、それが分からないというわけでもあるまい……
いや……アリエーヌならあり得る。
だって……おバカさんだったもんね。
だが、次の瞬間!
アリエーヌの手が、しっかりとヒイロの手をとった。
「こっちの方が……やりやすいじゃろ……」
手のひらと手のひらをあわせ、固く握りあう二人。
アリエーヌの脈打つぬくもりが手のひらを通してヒイロに伝わる。
アリエーヌの微笑む瞳が、潜水帽の奥をしっかりと見つめていた。
「やっぱり、お前……あの人と同じ……優しい目をしておるのじゃ……」
ヒイロは、少々時間を忘れた。
このままアリエーヌと見つめあっていたい。
いや、いっそうの事、抱きしめたいと思いもした。
だが、相手はキサラ王国第七王女。
しかも、英雄マーカスの婚約者だ……
そんな不埒な行動をすれば、アリエーヌの名前に傷がつく。
とっさに、ヒイロは自分の未練を振り払う。
――今は目の前の敵に専念しろ!
「行くぞ! アリエーヌ!」「オウなのじゃ!」
「水龍よ、我が呼びかけに
二人は握りしめた手を天に掲げた。
「
盟約に従い我が前に、その姿、
ヒイロが叫ぶ!
アリエーヌが歯を食いしばる!
二人の手の先に青く光る小さな渦が。
「うねれ! うねれ! うねぐるえ!
不浄なるものをうち流せ!」
渦はどんどんと大きくなっていく。
だが、その勢いは思いのほか強い。
二人の腕が激しく揺れ動く。
だが、二人は唱え続けた!
「「受けてみよ!水系究極魔法!
アクアストォォーム」」
二人は腕を振りぬいた!
その反動で、後ろに吹き飛ぶ二人の体。
――ちっ! 威力がでかすぎる!
ヒイロは、とっさにアリエーヌを引き寄せその身を庇う。
アリエーヌの魔力が強すぎたのか。
吹き飛ぶ二人の体は止まらない!
だが、そんな二人の体が、がっちりと受け止められた。
「お前たちの体は、俺が支えてやる!」
グラマディの巨乳がヒイロの背中を支えていた。
二人の体を必死に抱きしめ足を踏ん張るグラマディ。
だが、白虎の力をしても、その足は地面に線を引きながら、少しずつずり下がる。
激しい水のうねりが、まるで水龍となってテコイを襲う!
大きな渦に巻き込まれるテコイの体。
まるで洗濯機の渦の中をぐるぐると回るかのよう。
水の力にまきこまれたその体は、ねじれるように引きちぎれていく。
だが、そんな小さな塊でもまだ動く。
さすがは、ゴキブリ!
しぶとい……しぶとすぎる!
ならば!
ヒイロはさらに、アリエーヌの手を強く握りしめた。
「アリエーヌ! まだ行けるか?」
「……ウンなのじゃ……」
微笑むアリエーヌ。
だがその笑みは無理やり作ったかのように、どことなく辛そうであった。
というのも、アリエーヌ姫、実は初級魔法しか使えない。
当然、魔法制御などと言った高尚な言葉など知りはしない。
常に全力!
唱える魔法に全魔力を集中する!
いわゆる、一発屋!
だが、いままで唱えてきた魔法は幼稚園用の初級魔法であった。
「炎よ出でよ!」
当然、その魔法そのものの魔力受容限度は極端に低かった。
いくらアリエーヌが魔力を突っ込もうが、魔法そのものがいっぱいいっぱい!
例えるなら、小さなおちょこにバケツで水を入れるように、あっという間にあふれ出す。
だが、いま唱えているのは究極魔法。
大人の魔法だ。
詠唱する魔法の魔力受容限度は青天井!
それは海のようなモノ。
バケツの水などあっという間に飲み干されてしまう。
当然、ツッコめば突っ込むだけ魔法の威力は増大する。
魔法制御ができないアリエーヌ
唱える魔法に全ての魔力が集中した。
そんな二人から発せられた究極魔法の威力は当然デカい! バカでかい!
だが、ヒイロは忘れていた。
そんなアリエーヌの性格を忘れていたのだ。
そんなにテコイを倒すことに焦っていたのか……
いや、アリエーヌと三年も離れていたのだ……
しかも、今、その想い人としっかりと手をつないでいるのだ……
いいとこみせようと頑張りすぎていた……
だって……ヒイロ君……童貞だモン……
仕方ないよね……
って! そんな訳ないだろうが!
ヒイロ!
お前の方こそ、真のおバカさんだ!
この大馬鹿野郎が!!!!!!!!
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