第105話 ばん!バラ! ばん! ばん! ばん!

 アリエーヌに続きヒイロたちも穴を出ようとした。

 だが、アリエーヌたちがジャンプ一つで出たのにもかかわらず、ヒイロと5人の女の子たちは大穴の壁をよじ登る。

 その姿は、まるで壁を這うゴキブリ。


 巨大テコイが、そんなゴキブリたちを潰そうと手を振り上げて……

 叩く! 叩く! 叩くぅっぅぅ!

 そして、叩かれるたびに崖がバラバラと崩れていった。


 ばん! ばん! ばん!

 バラバラバラ……

 ばん! ばん! ばん!


 ひいぃぃ!

 おびえるヒイロと5人の少女たち。

 ゴキブリのように右に左に逃げまくる。


 ばん!バラ! ばん! ばん! ばん!

 ばん!バラ! ばん! ばん! ばん!


「誰かッ!」

「アっ! アっ!」

「た~つけてぇ~♪」

「俺たちを~♪」

「鬼滅ゥ!」

「ウっ! ウっ!」

「戦隊ぃ~♪」

「マジュインジャ~♪」

「「「「「マジュインジャ~♪」」」」」

 何か……まだまだ余裕そうじゃん……


「マジュインジャーストォォォォーム!!!!」

 アリエーヌの回転を伴ったドロップキックがテコイの顔面にクリーンヒット!

 その巨体が大きく傾いた!

 ドっしーン!

 遂に穴から飛び出したテコイの体が、何やら白い体液をまき散らしながら地面の上へと落ちた。


 このドロップキック。

 グラマディによって力いっぱいに放り投げられたうえに、キャンディの魔法によって技に磨きがかかっていた。

 まさに、三人のチームワーク!

 そう! 力と技と団結と!

「エイっ! エイエイオー!」

 アリエーヌたち三人が、意気揚々と力強く右こぶしを上げていた。

 お前たちは、サンバルカンか!

 えっ? 違う?

 違ったかぁ~♪


 その様子を、黒いローブの男が忌々しそうに見つめていた。

 ――あのブタ……はやり素人か、魔獣の体が馴染んでないと見える。

 だが今、手持ちの駒はテコイしかない。

 前任者の存在が明らかになった今、簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。

「テコイ! とにかく行け! いっテコイ!」


「我が奥義の前で灰塵と化せ!」

 グラマディがパイズリアーを頭上に高く掲げた。

 そして、一気に振り下ろす!

胸糞むなくそ一閃!」

 垂直に打ち下ろされたパイズリアーから、白き斬撃が一直線に走った。

 パイズリアーは聖剣!

 所有者を選ぶ!

 もしかして! ついに!

 ついにグラマディも聖剣パイズリアーに認められたという事だろうか?

 いや違う……

 いつも通りの、力任せのただの一撃……

 だが、今のグラマディは活性化した白虎のコスチュームを身にまとう。

 力の白虎。

 その能力が脳筋バカのグラマディに乗算されているのだ。


 ズパアッン!

 テコイの体が真っ二つに割れた。

 そう、グラマデイのヤケクソの一閃が巨大なテコイの体を切り裂いた。


 ついでに、その背後に広がるキサラ王国の街並みも、ものの見事に真っ二つ。

 その斬撃はそのまま海へとひた走り、ついには、海を切り裂いた。

 それはもう、旧約聖書に出てくるモーゼの海割りのよう。

 そそり立つ海の壁。

 海を自由に行きかっていた者たちにとっては、いきなり目の前の水がなくなった。

 そんなものだから、水の壁面からぴょんこら! ぴょんこら! 魚やら潜水艦が飛び出してきた!


 先ほどまでグラマディたちが戦っていたのは大穴の中。

 鋭い斬撃は、大穴の壁を深く深くえぐるだけでだった。

 まぁ、そのたびに、キサラ王国の国土の標高がどんどんと下がっていたのは言うまでもない

 それが穴から外に出れば、もう、その斬撃を受ける壁はない。

 グラマディの剣圧は、テコイどころか街をも襲っていた……

 はじけ飛ぶ建物。

 巻きおこる悲鳴……

 もう、これではどちらが鬼か分からないではないか……


「ちっ! 役立たずが!」

 空に浮かぶ男が、またまた黒い霧を吹き出そうと腕を伸ばした。


 ライムの声が響く!

「ちょっと! あんた! いい加減にしなさいよ!」

 黒い霧を噴き出そうとする男を見上げながら怒鳴っている。

 だが、ライムは空を飛べない。

 なら、ペン子はどうだ?

 確かにもともとペン子は鳥だが、ペンギンだ。

 さすがに、宙に浮かぶローブの男までは届かない。

 それを見越してか、男はにやりと笑う。

「そこで、黙って指でもくわえて見てろ!」

 ローブの隙間から黒い霧が噴出した。

 この霧を浴びれば、またテコイが復活する。

 また、同じことの繰り返し……

 いや、それどころかテコイの体はどんどんと大きくなっている。

 次は一体どのようなモンスターになるというのであろうか……

「させない!」

 ライムの目がきらりと光る!


「ふごォぺっ!」

 その瞬間、ローブの男の顔が醜く歪んだ。

 ものすごい勢いで吹っ飛ぶ男。

 その体が地面に突っ込んで、その勢いのまま転がっていく。

 激しくこすれる禿げ頭。

 残っていた横の毛までもがズルズルと抜け落ちていく。

 いや……削れていく……

 あぁ、あの状態まで行くと毛根はもはや再起不能だな……

 発毛専門クリニックのリープ22でも絶対に無理……

 よほどのダメージだったのだろう。

 地面に転がる男の鼻毛が、ぴくぴくと痙攣していた。

 おっ! 毛! まだ残ってるじゃん!

 よかった! よかった!


 男が吹っ飛ぶ直前、宙に浮かぶその体を超巨大なはえタタキがしばき落としていた。

 ライムが物質精製能力で作り出した超巨大なはえタタキ。

 それを、五人の女の子たちが、力を合わせて振り回したのである。

「うおりゃぁぁぁぁぁ!」

 素晴らしいチームワーク!

 これこそ!

 力と技と団結の!


「奥義! メガトン級超強力スーパーウルトラハイテンションファンタスティックマッドクレージーマンモストンデモエクセレントあとメッチャヤバイインフレはえタタキぃぃぃっぃ! ドン!」


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