第98話 やってもうた
再び、黒い霧がヒイロを包みこむ。
――ヒイロはんと間接キスでアリンス!
ペン子は懸命にゴムホースに息を吹き込んだ。
「ちょっと! それ私のだから!」
その思惑に気づいたのか、ライムが必死に奪い取ろうとしていた。
しかし、黒い霧は穴の中にたまるかのようにゆっくりと広がっていく。
ライムたちは、その霧を避けるかのように後ろに飛びのいた。
「このままではマズイわん!」
ヌイはライムの手から
男は、その棒手裏剣のように飛んできた
パン!
その瞬間、黒い霧もピタリとやんだ。
「ホースを身につけたようだな! だが、まだ
当然である!
ヒイロは中卒!
だがこう見えても、魔王討伐の功績により騎士養成学校の高等部を飛び級で卒業した超優秀児である。
あ……それは、替え玉のマーカスたんの事か。
という事は、ヒイロ君……表面上は学歴なしですな! わはははっは……
いまやそんな無学、いや無力なヒイロを包んでいた黒い霧は、その横で黒ずむテコイすらをも包み込んでいた。
黒い霧。
それはその昔、この世にモンスターと呼ばれる魔獣たちを生み出した霧である。
その発生原因を調査していたのが、ヒイロの3代前のプーア家女当主の【カーナリア=プーア】であった。
この時のプーア家は、ボインジェンヌ家、ワインハンバーグ家、エアハート家をまとめる筆頭貴族。
霧の発生場所でカーナリアは、二人の少女を見つけることになる。
それは赤く透き通る女の子とピンクに透き通る女の子。
カーナリアは、その場からピンクに透き通る女の子のみを連れ出した。
だが、黒い霧から外に出た瞬間、ピンクの女の子ははじけるように消え去った。
カーナリアのお腹にいた子が魔獣に変わるのを防ぐため、その身を犠牲にしたのである。
しかし、その身が完全に消えたわけではない。
時間をかけゆっくりと回復した少女は、ピンクスライムとしてプーア家の庭にいついていた。
カーナリアは、我が子と遊ぶピンクスライムをみる。
我が子の命を救ってくれたのがピンクスライムであると知ったカーナリアはモンスターと人間の共存を唱えはじめた。
だが当時はモンスターを恐れおびえる風潮。
当然カーナリアの言い分は嫌悪され、気が狂ったのではないかと揶揄される。
更に、妹を奪われた怒りに燃える魔王ドゥームズデイエヴァが暴れ始めたのだ。
その責任をとらされプーア家は、お家断絶! 取り潰し!
忌み嫌われるプーアの名前は歴史上存在しないものとして、ついに忘れ去られたのであった。
マッケンテンナ家の庭に開いた大穴の中で何かがゆっくりうごめいた。
黒い霧の中で一つの影が立ち上がる。
胸を反り天に向かって吠え猛るシルエット。
うごぉぉぉぉぉぉぉ!
暴走⁉
「初号機! 暴走します!!」
突如現れた女性オペレーターが叫んだ。
お前、一体、どこから出てきたねん……
薄まりゆく黒い霧の中、大きく裂けた口が天へと吠える。
まるで、それは飢えた獣かのようである。
もはや、そこに人としての理性は残っているとは思えない。
いや、黒い霧によって残されていた人の心を奪われたテコイ。
ついに暴走した。
このシチュエーション……
大きく開いた口の中で
その横でヒイロもまたうめき声をあげていた。
ゴムホースで呼吸をつないでいたにもかかわらず。
うごぉぉぉぉぉぉぉぉ!
活動限界⁉
「弐号機! 停止します!!」
再び女性オペレーターが叫んだ。
おーい! 艦長! コイツ現実世界に出て来とるで!
「あぁ……すみません! すみません! 今すぐ連れて帰りますんで!」
「ちょっと艦長! やめてください! 外出許可はちゃんととっているんですから!」
「
「でも、艦長……帰り道がふさがっていますよ……」
レロレロレロ……
ヒイロの口から、ドロドロに解けた何かが吐き出されていた。
こ! これは!
俗にいう、エクトプラズム現象では?
いやいやその割には、その姿がはっきりと見える。
魚の骨や尻尾まで……
これって……もしかして、ただのゲロ?
いや! も! もしかして!
……これは俗にいうラブゲロというものなのではなかろうか?
解説しよう!
ラブゲロとはコボウシインコの繁殖期に行われるエサのプレゼントのことである。
雄のコボウシインコが愛する者の口の中へ、胃の中の内容物を吐き出すという
分かったかな?
ということは、ついにヒイロもインコの魔獣となってしまったのだろうか?
――やってもうたでアリンス……
そのホースの先で、なぜか頬を赤く染めているペン子さん。
どうやらこれは、ペン子のラブゲロ。
ホースをつたってヒイロの口へレッツゴー。
だが、このラブゲロ……
通常、雄から雌に行われるのが常であるが……
……なぜ? ペン子さん?
イヤイヤその前に、お前、ペンギンだから……
ペンギンって、ラブゲロせえへんし!
そのゲロってただの育児ゲロですから!
ザンネン!
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