第97話 反省!


 それは、土俵より少し大きな丸い穴。

 むき出しになった土の表面からは無数の水蒸気が立ち上る。

 グラスによるピンポイント爆撃!

 しかも、数十発にも及ぶ魔法の精密詠唱!

 それにより、その地面は深く深くえぐられていたのであった。

 当のグラスはというと、案の定、魔力切れを起こしクレーターの縁でぶっ倒れていた。


 そんなクレーターの奥底には黒い塊が二つ転がる。

 いまだプスプスと音を立てるその表面からは白煙がのぼっていた。

 どうやらその黒い塊は、テコイとヒイロだったモノなのだろう。

 ピクリとも動かない。

 いやちょっと待て。

 耳をすませば……聞こえてくる。

 カントリ~ロ~ド♪

 違――――――う!

 歌ではない!

 そんなほのぼのとした音ではない。

 まるで、深い深い深海の暗黒面から這い登ってくるかのような呼吸音。

 シュコー! シュコー!

 そんな呼吸音が金属帽の中から響いてくるではないか。

 ダッ! ダッ! ダッ! ダッダダン! ダッダダン!

 ダッ! ダッ! ダッ! テェラ!ダッ!ダッダダン!

 テコイの触角がオーケストラを指揮するかのようにぴくぴく揺れている。

 どうやら、二匹とも生きているようだ。

 さすが、ゴキブリたち。

 段違いの生命力である。

 えっ? ヒイロの下の女の子たち?


 そんなうつぶせるヒイロが何かに押されるかのようにごろりと転がった。

 突然、その影から5人の女の子が飛び出してきたではないか。

 どうやら少女たちは、ヒイロの影の中に入り込み、この災難から逃れたようである。


 女子中学生風のヌイとミーニャが声を上げた。

「わーん! わーん! ワン! ヒイロっち大変なことになっているワン!」

「にゃぁぁぁぁぁ! ヒイロ! ヒイロ! 大丈夫ニャ~?」

 残る一人の女子中学生は、その傍らで震えていた。

「ウルルは、怖いですぅ……怖いですぅ……怖いですぅ……」

 そんな時、一番大きな女子高生ことペン子が幼女を急かすかのように大声を上げた。

「ライムはん! 今こそ与えられしホースを使うでアリンス!」

 ホース?

 キョトンとする幼女のライム。

 しかし、その手にはいつしかビニールホースが握られていた。

「違うでアリンス! J大ジェ●ダイのフォークでアリンス! J大ジェ●ダイのフォーク!」

 J大ジェ●ダイのフォーク?

 またしてもライムの手には日本●●大学の食堂で使われていそうなフォークが握られていた。

 次から次に、一体どこから出しているのやら。

 お前はドラ●もんか!


 その様子を空から伺う黒色のローブ。

 上空に浮かぶ金色の目が、ライムのすっとんきょうな行動を捕えていた。

 ――まさか……あれは、前任者イブの物質生成の能力なのか?


 イブとは、かつて魔王ドゥームズデイエヴァと呼ばれし少女。

 ヒイロがピンクスライムのラブとともにその呪縛から救い出した少女である。

 ドゥームズデイエヴァは己が体を自らが生成した物質で覆い、堅固なる装甲を有していた。

 その装甲を作り出していたのがこの物質生成能力なのである。

 えっ? いまさら?

 何が今さらやねん!

 そんなのか書かんでもわかるやろ!

 姉妹だったピンクスライムドラゴンと、魔王ドゥームズデイエヴァの姿が違いすぎてるんだから!

 けっして! 説明するの忘れていたわけやないで!

 決して!

 ……

 ……

 スミマセン……忘れておりました……申し訳ございませんでしたァァァァ!

 ピっ! 反省!


 ――まさか、あの幼女が前任者の一人?

 黒いローブを身にまといし男ははっとする。

 ならば、やはり前任者を封印の地から連れ出したのは、ヒイロだったという事になるではないか。

 ――やはり、あっちのマーカスは偽物か!

 まさか! たばかられたのか?

 いやいや勝手に勘違いしたのはアンタだから!

 男は、とっさに腕を突き出すと、そのローブの隙間から黒い霧が噴き出した。

 空から流れ落ちる黒い霧がヒイロの体を包み込んでいく。


 ライムが叫んだ。

「ダメ! この黒い霧を吸ったらヒイロが魔獣に変わっちゃう!」

 刹那、ウルルがこぶしに力を込める!

「秘技! ラビット流星拳りゅうせいけん! アタタタタタタタタタタタタタタ! ホワタァ!」

 突き出される無数の拳が、黒い霧をまき散らす。

 黒い霧にぽかんと開いた穴に、ヒイロの潜水帽がくっきりとみえた。

 しかし、ヒイロは動かない。いや、もはや動けないのだ。

「お前はもう! しんでいる!」

 ペン子の拳もまた動く!

 まさか、その穴から眠るように横たわるヒイロを救い出そうと言うのであろうか?

 だが開きし穴は、尻の穴のようにどんどんとすぼんでいく。

「フォォォォォ! 秘技! 南特急官鳥なんときゅうかんちょう! でアリンス!」

 ペン子の細い指先が黒い霧にあいた穴を通り、まるでイチジク浣腸のようにスポッとヒイロの穴に突っ込まれた。

 うごっ!

 ヒイロの口がうめき声をあげた。

 生きている!

 ヒイロはまだ生きていた!

 いや問題はそこではない!

 ここに来てまた穴か? 穴なのか?

 いやいや、これでもペン子さん、女子高生のお姉さんである。

 ギャグをかますにしても時と場所を選んでいる。

 まして今はペンギンではなく女子高生の姿。

 そんなか細き指先をヒイロの穴にでもツッコもうものなら茶色い香りがこびりつく。

 もはやそうなれば、文系のお姉さんというイメージが崩壊してしまうではないか!

 そう、ペン子が突っ込んだのは指ではない!

 ライムから奪い取ったゴムホースなのである!

 そのゴムホースの先がヒイロの穴に突っ込まれていたのだ。

 そして、一気に息を吹き込んだ。

 ふぅ―――――――――!

 あっ!

 言い忘れてた……

 穴は穴でも、潜水帽の割れた窓の穴だからね。

 絶対にケツの穴じゃないからね!

 茶色い香り?

 もう……錆だよ錆!

 錆にまみれる姿は工学系!

 そして、勘違いした人は変態さん!

 変態さんは、コメント欄で反省でもしてなさい!


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