第89話 ゴキブリって……(2)
ステージの上で、そんなことを思っていたヒイロ。
だが、脳内の探査ソナーがすぐさま消えたゴキブリテコイの気配を探す。
ピコーン!
そこか!
瞬間、ヒイロの姿も忽然と消えた。
逃げた?
逃げたのかぁぁぁ?
アイツ……あの時と同じように、ゴキブリテコイを目の前にして逃げだしたのか?
いや違う。
ヒイロの体は加速したのだ。
クイックの魔法を唱えたヒイロの体は、テコイ同様に消えたように見えたのである。
次の瞬間、何もない空間からいきなりテコイがぶっとんだ。
続いて現れるヒイロの姿。
ヒイロの足が、そのスピードを残しステージの上を後ろ向きに滑っていく。
ステージでひっくり返るテコイ。
ぐおぉぉぉぉ!
白目をむいて、口から泡吹き出しピクついていた。
ステージに手をつきようやく止まったヒイロの体。
だが、その潜水帽の中からは、えずく声が響いていた。
「空気……空気……をくれ……」
パイズリアーを投げ捨てたヒイロには武器がない。
今や素手のヒイロ。
しかも、体内の魔法回路は焼き切れている。
ヒイロにとって魔法の詠唱はかなりきついはず。
それでも唱えたヒイロ。
加速された流れの中で、テコイにいかなる攻撃を仕掛けたのであろう。
えずくほどに体を酷使したのであろうか?
それは、おそらく考えも及ばないほどの大ダメージに違いない。
だが、その二人の動きが早すぎて誰もその様子を捕らえることができなかった。
では、スローでもう一度見てみよう。
はい! 巻き戻し!
確か、あの時……
ヒイロにとどめを刺そうと加速したテコイ。
それに応じて、ヒイロも加速した。
二人の速度はほぼ同じかと思われた。
だが、少しヒイロの方が若干早い。
例えていうなら、N700系新幹線の最高速度300km/hに対して、N700S系の360km/hといった感じである。
駅のホームから見ていれば、どちらも早すぎてその違いは分かりはしない。
だが、並んで走る二人の時間差は歴然であった。
テコイが突き出す剣。
ヒイロにとって、その剣の動きはゆっくりしたもの見えた。
それを訳もなく潜り抜けるヒイロの体は、テコイの前でくるりと反転した。
そして、飛び上がるヒイロのケツ。
その尻がテコイの顔面を捕らえたのだ。
衝撃でテコイのボヨボヨとした頬の脂肪が波打った。
――秘技! ヒップアタック!
武器を持たぬヒイロは、己が尻をテコイの顔に押し付けたのだ。
だが、その単発のヒップアタックだけでは、ペンギンや子ウサギが繰り出した秘技と同じである。
これでは魔獣達のマスターとしての沽券にかかわる。
――技とは連携してこそ本当の力を発揮するものだよ! 分かるかな! 明智くん!
明智くん! って誰やねん! この世界は江戸川か! いや多摩多摩の奥多摩だろう……いや、今はタマタマじゃなくて尻こ玉の話なんだけどね。
なら、ヒイロはココから回し蹴りでも入れると言うのであろうか?
もし、この予想をヒイロが聞いていたとしたら笑いながら否定することだろう。
――チッ! チッ! チッ! 考えが浅いな! 明智くん!
得意げに立てた指を左右に振った。
――君たちは、ゴキブリが苦手な物は何だろうかと考えてみたことはあるだろうか?
えっ? ヒップアタックを繰り出しているこのシチュエーションで、ヒイロ君は何を思っているのでしょうか?
バカなの? ねぇバカなの?
あっ! ちなみにこの辺りの会話は適当に自分の好きなキャラで再生させてくださいな!
何なら、アタシでもいいわよ!
ピンクのおっさんじゃなくて乙女こと、ゴンカレー=バーモント=カラクチニコフが現れた!
って、作品が違〜う!
それは「俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます」のキャラクターや!
などと、別小説の宣伝をサラリ♪
まぁしかしなんだ、今のヒイロの世界はクイックの魔法で加速された世界である。
こんなたわごとも実世界で換算すると、たかが0.00001秒のわずかな事である。
だから問題なしのモーマンタイ!。
その問いに答えてあげよう。光秀くん!
乱歩とちゃうんか~い!
アホか!「真実はいつもひとつ!まみ」などと言っていれば、著作権にひっかかるだろうが! 著作権に!
という事で、あらためて!
塩だよ! 塩!
ゴキブリは塩が苦手なの!
ひとつまみの塩を食べると脱水症状みたいになるんだってよ!
だから塩!
ブッブブゥ!
ヒイロが思いっきり両の手でバツ印を作った。
殺す!
いま、なんか信長の無念さが分かったような、分からなかったような……
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