第81話 首が飛ぶ(1)

 鎖をつかみ取るために執行人の体を踏み台にして飛び上がるヒイロ。

 瞬間、ヒイロは手に持つパイズリアーを振りぬいた。

 ムツキの首を縛っていたローブがバッサリと切れたかと思うと、パイズリア―はその勢いのままに飛んでいく。

 その先は離れたもう一つの櫓の頂上。

 一直線に飛んだ剣先がボヤヤンの首から伸びるロープを貫いた。

 だが、櫓は壊れる。

 当然、落っこちるボヤヤンの体。

 しかし、漢ボヤヤン、死んでも鎖を放すまいとしっかりと腕に巻き握りしめていた。

 ほげぇっ!

 だが、無情にも櫓から落下したボヤヤンは、ステージに思いっきり叩きつけらた。

 クビにくくりつけられたロープがないのだから、まぁ落っこちるのは当然である。

 ステージに落ちたボヤヤンの体は、断頭台の刃の落下の勢いに引きずられていく。

 まるで、高速の芋虫のようにステージを滑っていくではないか。

 しかし、その芋虫は途中で止まった。

 芋虫の顔面を、女の足が抑えつけていたのである。


 いや、正確には、ボヤヤンの顔をグラマディの足が力まかせに踏みつけていたのだ。

「この変態野郎! 俺のスカートの中を覗くきか!」


 芋虫のように引きずられるていくボヤヤンの直線上にグラマディが立っていたのである。

 尻を突き出し見上げるような表情のボヤヤンは、グラマディのスカートの下を通過しようとした。

 顔を赤らめたグラマディ。

「見るな! 変態野郎!」

 まるで幸せそうな笑顔をたたえていたボヤヤンの顔を踏みつけたのだ。

 だが、この時のグラマディは知らない。

 そう、既にボヤヤンの意識はなかったのである。

 ボヤヤンはステージに落下した衝撃ですで意識を失っていた。

 だが、鎖を死んでも放さなかった、それによってオバラを守り通したという自負心から自然と笑顔になっていただけのことなのだ。


 ヒイロは叫んだ。

「キャンディ! 施錠ロックの魔法を断頭台に向けて放て!」

「なんやて!」

 キャンディはびっくりする。

 キサラ王国の国家を歌い終わったと思ったら、いきなり始まったチャンバラ劇。

 キャンディはその変化に呆然としていたところなのだ。

「グダグダ言ってないで、早くしろ!」

 その言葉にせかされるようにキャンディは、施錠ロックの魔法を詠唱する。

 ――で……なんで施錠ロックの魔法なんや?

 だが、オバラを縛り付けていた鎖の鍵という鍵が全部開いた。

 一つの魔法で全て解錠させるとは、さすがは、魔力の強い賢者キャンディ様である。


 ――あっ……そう言われてみれば、うちの魔法はあべこべやったんや……テヘ。

 ベロを出して自分の頭を小突くキャンディ。

 かわいい。

 やっぱり女の子がやると、こうも可愛いものなのか。

 だがキャンディは思う。

 ――なんであの潜水帽の変態男は、青龍のあべこべ魔法のことを知っとんや?

 それ……青龍じゃなくて、キャンディ、お前だから!


 ヒイロはアリエーヌに命令する。

「今のうちに、その女を下ろせ! アリエーヌ……姫……さま」

「分かったのじゃ!」

 まるで歴戦を潜り抜けたかのような阿吽の呼吸のようにアリエーヌはオバラを抱きかかえる。

 瞬間、二つの刃がバッコンと落ちた。

 その刃を見ながら青ざめるアリエーヌ。

 ――間一髪だったのじゃ……


 だが、そんなアリエーヌに魔の手が迫る。

 先ほどヒイロが薙ぎ払った刺客たちである。

 起き上がった刺客たちは、再びアリエーヌを狙おうというのである。

 あの時、ヒイロは刺客たちの剣を薙ぎ払ったが、致命傷は与えていなかったのである。

 この刺客たちはアリエーヌの命を狙おうという不届きものだ。

 きっと、どこぞ誰かの差し金に違いない。

 そいつの名を吐かさなければ、アリエーヌの命はこれから先も狙われ続けてしまうだろう。

 ――ならば、とっつかまえて、そいつの名前を吐かせるまでよ!

 だが、そんなヒイロの判断が、今、あだとなったのだ。

 刺客たちは、オバラを抱えるアリエーヌに襲い掛かる。

「アリエーヌ!」

 ヒイロは叫けぶと同時に、手にもつ鎖を手繰り寄せ、それを一気に振り回す。

 一人の刺客の頭を鎖が打ち払う。

 さらに回転を続けるヒイロの体。

 それに遅れて付き従う断頭台の鎖が勢いを増した。

 うぉぉぉ!

 力を込めて降りぬかれる鎖。

 瞬間、二人の刺客の体が仰向けに宙を舞った。

 ヒイロの回す鎖が刺客の足を払っていたのだ。


 だが、それでもまだ二人のこっている。

 鎖を投げ出すヒイロの体が駆ける。

 だが、間に合わない。

 くそ!


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