第82話 首が飛ぶ(2)
しかし、そのヒイロの目の前でその二人の刺客の体がはじけ飛ぶ。
フンゴォ!
まるでボーリングのピンのようにバーンと!
――なんだと!
唖然とするヒイロの眼前をボヤヤンの笑顔が飛んでいく。
顔の真ん中に赤い足跡をつけたまま飛んでいく。
笑顔であっても、その目は白目をむいたまま。
再びヒイロの脳内の艦長が大声を上げた。
「何が起こった!」
女性乗員が振り返る。
「護衛艦からの援護射撃です!」
「なんだとぉぉぉ!」
ヒイロは、とっさにミサイルが飛んできた方向に目をやった。
断頭台の向こうではグラマディが得意げに手をパンパンと払っていた。
「アリエーヌを狙う奴は! この俺! グラマディ=ボインジェンヌが成敗する!」
そう、刺客の二人めがけて、足元に転がるボヤヤンを投げつけたのである。
それも白虎の力が乗算されたバカ力で思いっきりと……
――死んだな……あいつら……
もうあそこまで邪険に扱われると、きっとボヤヤンは死んでいるかもしれない……
そんなやるせない思いをヒイロは抱きながら旅だつボヤヤンたちを見送った。
チーン!
マーカスたんは、無様におびえ涙を浮かべていた。
「ひぃぃぃぃいぃ! 誰か僕ちんを助けて!」
「お……おい……アリエーヌ姫! 婚約者が! ど……どうなってもいいのか!」
ヒイロの鎖の初撃によって打ちのめされたはずの一人の刺客が、いつの間にか起き上がり、こともあろうか、英雄マーカスの首に剣を当てていた。
だが、その刺客の表情は少々おびえているようす。
大きく目が開け広げ、言葉もどもっていた。
それは仕方ない、今、刺客が剣を当てている相手は、英雄マーカスなのだから。
しかし、刺客も思い切ったものだ。
英雄マーカスを人質にとって、アリエーヌを脅すとは誰も思いもしなかった。
というか、当然、刺客も英雄マーカスによって、アリエーヌ暗殺を邪魔されると警戒していたのだ。
ところがどっこい、当の英雄マーカスは、チャラチャラしているかと思えば、今度は櫓が壊れた衝撃にビビッて尻餅をついてオドオドとしているのである。
アリエーヌを守る気などさらさらない。
それどころか自分の身すらどうしていいのか分からないようなのである。
だが、それは刺客にとっては好都合。
これで、アリエーヌ暗殺は簡単なことと思われたのだ。
しかし、しかしである!
なぜだか分からないが、潜水帽をかぶったヘンタイ野郎がアリエーヌを守って一歩も前に通さない。
ならば、棚からぼたもちで断頭台の刃によってバッサリ言ってくれればラッキーだったのだが、それも、この変態野郎が必死になって食らいつく。
一体何なんだヨ! あの変態野郎は! 魚臭いんだよ!
しかも時間がたちすぎた。
チョコットクルクルクルセイダーズの残りメンツも、次第にアリエーヌを狙う刺客の存在に気付き加勢し始めた。
そんな時、ちらりとステージを見る刺客。
そこにはガタガタ震えるマーカスたんの姿。
――今のマーカスは傷ついている……
刺客は一か八か英雄マーカスを人質に取る手段に出たのだ。
このままアリエーヌを無事に帰してしまえば、自分の命が危ない。
もう、後がない刺客。
――どうせ失敗すれば死ぬる命……
決死の覚悟でマーカスの背後を狙う。
だが、相手は傷ついているとはいえ英雄マーカスだ。
いつ腰に携えている剣が抜かれるか分からない。
一刀のもとに切り伏せられる恐怖が刺客の背筋を襲う。
刺客の体が、自分が出せる最高のスピードで回り込む。
そして、マーカスの手を後ろ手に固め、剣を喉へと押し当てたのだ。
……あれ? 意外に簡単にできちゃった……
刺客は、自身の行動、いや、マーカスの無防備な行動に驚き言葉が出なかったのである。
「マーカスたん!」
その様子にドグスが大声を上げた。
ヒイロを捕えようと警備の兵を檄を飛ばしていれば、なぜか、我が息子のマーカスたんがとらえられていたのだ。
――なんでやぁぁぁぁぁ!
一瞬意味が分からないドグスであったが、さすがはマッケンテンナ家の女当主、頭の切り替えは早い。
優先順位はヒイロよりもマーカスたん。
「守備兵! マーカスたんを守れ! 剣を突き立てとる奴をぶち殺せ!」
その声に、ヒイロに向いていた守備兵たちが、マーカスたんに向きを変える。
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