第14話 走れ! テコイ(1)
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ゾンビの襲来だぁあぁぁっぁ!」
どこの誰ともわからぬ男の叫び声。
その叫び声によって5人は目を覚ました。
いや、目を覚ましたというより、目の前の風景が突然変わったのだ。
すかさずあたりを見回す。
ヒドラは!
ヒドラはどこだ!
ひぃいぃぃぃい!
しかし、辺りからはヒドラの恐怖は消えていた。
目に映る風景、ここは先ほどまでいた森ではなかった。
ココはどこだ。
先ほどまで感じなかった血の香りとともに、生ごみや酒の香りが混ざってくる。
ウグっ!
5人は一斉に吐き出した。
口にたまる血の味に耐えかねて、汚物を一斉に吐いたのだ。
吐き終わった5人の目はゆっくりとあたりを伺った。
口についた汚物を手で拭いながら、あたりの様子を確認する。
日が沈む前の強い太陽。
その太陽が照り付ける石畳。
その路面に、石を積み上げた小さな建物の長い影が長く伸びていた。
そして、そんな建物のドアからは、いつもの見慣れた顔どもが、思い思いにこちらを覗いている。
その中にはホステスのアキコちゃんも、昨日、飲みすぎたのかどうかは分からないが、まるで泣き晴らしたかのような赤くなった目を大きく見開いていた。
ここは見たことがある風景。
そう、ここはキサラ王国港町2丁目の酒場の前。
アキ子ちゃんが務めるキャバクラの前でもある。
どうして……ここに……?
テコイは不思議に思う。
ヒイイイイイイイホぉ!
その横で、さけぶボヤヤン。
錯乱状態のボヤヤンの姿がついたり消えたりしている。
まるで電気のスイッチを入れた消したりするかのように、その姿が点灯していた。
どうやらボヤヤンの転移魔法が暴走し5人をこのキサラ王国まで連れ戻してくれたようである。
不幸中の幸いとは、このことか。
先ほどの男の悲鳴を聞きつけた守備兵たちが駆けつけてきた。
「ゾンビはどこだ! 早く駆除し……まさか、マーカス様!」
守備兵は腐った死体のように転がる5人の中に、見慣れた顔を見つけた。
それは、まぎれもない英雄マーカス。【マーカス=マッケンテンナ】であった。
守備兵は叫ぶ!
「早く回復術師を! マッケンテンナ家にも早急に連絡だ! 大至急! 急げ!」
それからの現場の対応は、早かった。
町中の回復術師たちがものすごい勢いで集まって、懸命に5人を回復したのだ。
英雄マーカスが、ぶつぶつの顔で帰ってきたのである。
いや、顔だけでない体中。
そりゃ、町中の総力を挙げて、助けようとするのは当然のことである。
まぁ、そのおかげで、お供の4人もそれ相応の恩恵を受けることができた。
これにより5人の症状は劇的に収まった。
溶け落ちていた傷口はふさがり出血が止まる。
体液を噴き出し続けていたぶつぶつは、その穴を閉じ黒く固まった。
回復術師たちの懸命の処置により、その体から毒は引き、みるみると傷はふさがっていた。
だが、欠損した部分は戻るわけではない。
回復魔法は、あくまでも、その症状の進行を止め固定させるだけの事である。
傷口や痛みがなくなる。
その体にたまる毒がなくなる。
体を襲うマヒや呪いから解放する。
こういったものである。
そのため、欠損した体などが、いきなり再生するということはないのである。
魔法とは合理的なものなのだ。
無から有は作り出せない。
すなわち、魔法とはそれ相応の対価と引き換えなのである。
溶けた頬は溶けたまま。
ちぎれ落ちた腕はちぎれたまま。
むき出しの足は、むき出しのまま。
いきなり肉がむくむくと盛り出してくるなどあり得ないのだ。
当然、死者の再生など回復魔法の出来る範疇ではない。
まぁ、それでも十分と言えば十分。
あのままの状態であれば、遅かれ早かれ死んでいた。
こんな醜い姿になったとしても生き残ることができれば、ラッキーと言うものだ。
しかし、街中の者たちがマーカスに何があったのか尋ねてみても、マーカスは、ただただ笑うばかり。
すでに精神が壊れているのか……
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