第12話 ヒドラ討伐(7)
「アタイにもおくれよ……」
やっとのことで霧から出てきたオバラ。
遅れて霧に入ったことで、毒にさらされた時間がわずかだったのだろうか。
先の三人に比べると、人間らしい元のオバラの姿があった。
だが、それは左半身だけのこと。
オバラの右半身は、まるでやけどでもおったかのようにただれていた。
「やかましい、もうお前は賞味期限切れなんだ、いまさら毒消し食おうが食わまいが大してかわらないだろうが!」
テコイは叫ぶ。
「ひどいじゃないか! いつもいつもアタイの事ゴミみたいに見やがって! ヒイロみたいに優しく見ておくれよ!」
「その名前を出すな! コレはきっとやつのせいだ!」
えっ……
オバラは思う。
これがヒイロのせいだって!
そんなバカな!
だってアイツはそんなことをする子じゃないよ。
いつも馬鹿正直で、まっすぐな目を向けてきやがる。
本当は、アタイ……もっとあの子に見つめてもらいたかったんだ……
でも……あの目で見られると、まるでアタイ自身が汚いもののように感じてしまう。
きっと……その内、避けられるような気がして怖かった……なら、アタイの方から捨ててやるよ! って……馬鹿だな……アタイ……
しかも、昨日だって、みんなの罪をなすりつけられた時でさえ黙って土下座する子だよ……
悪事の事、全部知っているにも関わらず、それを飲み込んで頭を下げる子だよ……
そんな子が、こんなセコいことしやしないよ……テコイ! アンタじゃあるまいし!
おそらくコレは、あの子を裏切った罰なんだ。
今まで、あの子が私達を守ってくれていたのに、それに気がつかなかった罰なんだ……
あぁ、アタイたちは、なんてバカなんだろ……
あの子がいれば、きっとこの傷だってなんとかしてくれたっていうのに……
今は、もういない……
もう、取り返しがつかない……
アタイは死ぬ……死んじゃうだ……
嫌だ……嫌だ……死ぬのは嫌だ……
あの子に謝るまで死ぬのは嫌だ……
あの優しい眼差しで許して貰うまで……
死なない……死なない……死ねない……
死んでたまるかあぁぁぁぁ!
「テコイ! アンタこそくたばりな!」
「息子が落ちる……引っ付け! 引っ付け! まだ、お前、まだアキコちゃんと手すらつないでいないだろうが! おい!」
ムツキは、自らの股間を見ながら叫んでいた。
既にズボンの布は溶け落ちて、ズボンの役目を果たしていなかった。
ムツキは思う。
なんで、俺がこんな目にあうんだよ。
俺が何をしたって言うんだよ。
俺にはアキコちゃんと幸せに暮らすというライフプランがあったていうのに、全ておじゃんじゃないか!
なんでだよ!
この前まで連戦連勝で、うまくいってたじゃないか!
街では結構有名になってきてさ、アキコちゃんだって俺の事を少しは気にし始めていたんだぞ。
それが、まだ、アキコちゃんとドッキングする前に息子が旅立とうとしている……
息子! お前はもうアキコちゃんに未練はないのかよ!
俺のもとに戻ってくる気はないのかよ!
一緒にエロ本を見て体をさすり合った日々。
一緒に女風呂を覗いて共に伸びあがった日々。
一緒にアキコちゃんの罵倒を想像して白い汚物を何度も吐き出した日々。
もう、あの楽しかった日常には戻れないのかよ……
ダメだ……ダメだ……こんなところで失ったらダメだ……
アキコちゃんとドッキングするまで失うのは嫌だ……
あの侮蔑の眼差しで、お前を握りつぶして貰う日まで……
失わない……失わない……失わない……
失しなってたまるかあぁぁぁぁ!
「ジュニアァァァァッァ! カムバァァァァァァック!」
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