第3話 強欲の猪突軍団(1)
宿敵魔王を打倒した【チョコットクルクルクルセイダーズ】。
そして、姫様たち4人の女の子を守りながら戦った【マジュインジャー】
まさに、【マジュインジャー】はチョコットクルクルクルセイダーズの真の英雄。
おびえ、隠れ、打ちひしがれているだけの人々を明るく照らしだす唯一の英雄。
その英雄の職業こそ、魔獣使いであったのだ。
その昔、モンスターを使役することで人々から忌み嫌われていた魔獣使い。
しかし、その魔獣使いが、この聖戦に一つの区切りをつけ、人々に希望を与えた。
それ以来、魔獣使いと言う職業は英雄の職業となり、若者がなりたい職業ランキング一位を常に独占し続けた。
この聖戦の功績により、この魔獣使い【マジュインジャー】は、大貴族の一員として迎え入れられた。
そう、それが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマッケンテンナ家である。
そして、この魔獣使いの英雄【マーカス=マッケンテンナ】は、このキサラ王国の王に非常に気に入られ、ついに、第七王女【アリエーヌ=ヘンダーゾン】様との婚姻話まで持ち上がっていた。
いまや王国中は、その喜ばしい話に沸きに沸いていた。
英雄と王女の結婚。
だれしも、このキサラ王国の更なる平和と発展を夢に見ていた。
さきほどから薄暗い酒場の雰囲気は、ニタニタと笑う軽薄な空気に包まれていた。
ヒイロの前に座るテコイこそ、真剣な眼差しをしているが。
しかし、【強欲の猪突軍団】の他の三人はヒイロを見ながらせせら笑っているのである。
まさにヒイロに対するクビ宣言を事前に知っているかのようである。
テコイは続けた。
「君は、自分は優秀な魔獣使いと言う売り込みで、このパーティに参加させてくれと言いましたよね」
ヒイロは小さくうなずいた。
ヒイロ自身、魔獣使いの能力は高いと自負していた。
そして、この国の誰よりも強いと思っているのだ。
まぁ、確かにうぬぼれと言えばうぬぼれかもしれない。
だが、それをテコイに言っても無駄な様子であった。
テコイは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「君が使役するモンスターはLv1のレッドスライム一体のみ。それも、戦闘のたびに液状化を起こす全くの役立たず。この前のケロべロススケルトンとの戦いでも、君は全くもって戦闘には協力的でない。言っている意味、分かりますよね」
「そうよ、あの戦闘で、ケロべロススケルトンをやっつけたのは、アタイたち四人よ! あんた何していたのよ! その役立たずのスライムの回復していただけじゃない!」
テコイにまとわりつくオバラがヒイロをにらみつけた。
ヒイロはオバラをにらむ。
お前は、いつもうなだれたテコイの一物を回復させているだけの役立たずだがな!
ヒイロは思ったが、口にはしなかった。
「まぁ、俺たち4人が強かったおかげで、街を恐怖に陥れたケロべロススケルトンをやっつけることができたんだけどな。と言うことは、お前、いらなくね? というより、さっさと出て行ってくれないかな。俺、用事があるんだけど」
壁にもたれているムツキが、早く帰りたそうに言っている。
さきほどから、窓の外の様子が気になって仕方ないようである。
ヒイロはムツキをにらむ。
だから、アキコちゃんはお前の指名を嫌がっているんだって気づけよ!
ヒイロは思ったが、また口にはしなかった。
部屋の奥では、ボヤヤンが必死にチキンに食らいついていた。
よほど腹が減っていたのだろう。
もう、肉すらついていないトリの骨をおしゃぶりのように、口の中で前後すると、それに伴いチュッパチュッパといやらしい音がした。
そんなボヤヤンとヒイロの目があった。
ボヤヤンの骨の動きがピタリと止まる。
……………………
………………
…………
ボヤヤンは、また、トリノ骨をしゃぶりだした。
ヒイロはボヤヤンをにらむ。
何かしゃべれよ! コラっ!
ヒイロは思ったが、またまた口にはしなかった。
まぁ確かに、彼らのいう事も一理ある。
それは、2日前の事であった。
夜遅く道具屋の奥に展示されていたケロべロスの骨が急に動き出し、街中で暴れ出したのだ。
その時も今日と同じく、この酒場で飯を食っていた【強欲の猪突軍団】のメンバーたち。
その窓の外をケロべロススケルトンが走り抜けていく。
テコイは食事の勘定を、ほったらかしに店を飛び出した。
残りのメンバーも勘定を押し付けられるのが嫌で、すぐさまそれに続いた。
最後に残ったヒイロは、店主に首根っこを押さえられた。
街の通りは、家々の窓から漏れる明かりで、ところどころその石畳をオレンジ色に染めていた。
そんな道のいたるところに、冒険者とおぼしき者たちが倒れていた。
普通のケロべロスでも強敵である。
10人の騎士、10人の魔法使い、10人の僧侶が束にならないと押さえられないだろう。
それにもまして今、走っているのはガイコツ。
肉がないから、剣で切っても効果がない。
魔法を放っても、骨の隙間からすり抜ける。
ならば、回復系の魔法で浄化を! とおもったのだが、このスケルトン、なんと回復しやがった!
ますます、元気になるケロべロススケルトン。
街の冒険者や、守備隊ごときでは全く太刀打ちできなかった。
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