第4話 強欲の猪突軍団(2)
ケロべロススケルトンが袋小路に追い詰められた。
だが、すでに、追いかける冒険者たちの数は少ない。
ほとんどがやられてしまっているようだ。
それに気づいているのか、ケロべロススケルトンは体の向をぐるりと180度回転し、通りの入り口をめざして、もう突進!
そんな時であった。
酒場の飲み代を踏み倒してきたテコイたち【強欲の猪突軍団】がケロべロススケルトンの前に立ちふさがったのだ。
この【強欲の猪突軍団】は、ここ最近、名を上げてきた新進気鋭のパーティだ。
まぁ、ここ最近と言ってもヒイロが加入して以来の話であるが。
ヒイロが参加するまでの【強欲の猪突軍団】は、ただの飲んだくれの弱小パーティ。
ゴブリン一匹、相手にするだけでも、4人が大けがをする始末。
そしてそのゴブリンすら、無傷で取り逃がしてしまうという救いようがないパーティだった。
仕方ないので、酒場の用心棒を店主を脅してむりやり買って出る。
だが、キャバクラができたことで、そもそも客が来ない酒場。
用心棒などいてもいなくても変わらなかった。
そんな、【強欲の猪突軍団】にヒイロが参加を申し出たのである。
今や人気の職業である魔獣使い。
どこのパーティにも一人は魔獣使いが居座っていた。
だが、この【強欲の猪突軍団】、弱すぎて参加希望の魔獣使いが寄り付かない。
魔獣使いがいないパーティがこの【強欲の猪突軍団】ぐらいだったのだ。
ヒイロは自分は強い魔獣使いだと売り込んだ。
「今はこのレッドスライムしか手元にいないが、コイツがいるだけで100戦100勝を保証する」
ヒイロは豪語した。
テコイは冗談だと思った。
だが、ゴブリンも4人では負けたが、5人なら勝てそうな気がする。
何なら、このレッドスライムをエサにして、袋叩きにすればゴブリンに勝てるんじゃね?
と言うことで、ハイ! 採用!
そしてなんということでしょう!
テコイたちは、以前までてこずっていたゴブリンに勝ってしまったのです。
それも、無傷で!
しかし、ヒイロは手伝わない。ただただ後ろで液状化したスライムに回復魔法をかけているだけだった。
テコイはまだ信じられない。
それでは、こんどは少し強くしてみよう。
ということで、試しにホブゴブリンとまみえてみた。
勝っちゃった! それも無傷で!
俺たち、実は強かったんじゃね?
ただ、今まで、運が悪かっただけじゃね?
しかし、ヒイロは、また液状化したスライムに回復魔法をかけているだけだった。
テコイは調子に乗った。
ギルドのクエストで、ゴブリンにさらわれた女たちを救出するという超難度のクエストに手を出した。
ゴブリン一匹二匹ならいざ知らず。
数百匹のゴブリンとホブゴブリンを、この5人でやっつけようというのである。
バカだ……
もう少し、メンバーと作戦を整えようとヒイロが助言するが、聞き入れない。
ゴブリンの巣に突っ込む【強欲の猪突軍団】
なんと、ゴブリンどもを駆逐し女たちを救い出してしまった。
その横でヒイロは、また液状化したスライムに回復魔法をかけていた。
ただ今回は、さすがのヒイロも回復魔法の使い過ぎで、死にかけの状態だった。
疲労のために目の下に大きなクマができていた。
そんなうぬぼれた【強欲の猪突軍団】が今、ケロべロススケルトンに戦いを挑む。
「待て! まだ準備ができてない!」
後から駆け付けるヒイロが叫んだ。
テコイたちが踏み倒した勘定を払っていて出遅れたのだ。
しかし、そんなことお構いなしのテコイは突っ込んだ。
テコイの腹部にケロべロスの突進がめりこむ。
ごぼぉ……
先ほどまで食べていたチキンが、破裂した内臓の出血とともに口からリバース。
久しく忘れていた激痛がテコイを襲う。
すでに、テコイは立つこともままならなかった。
放心状態のテコイの口からは、赤い血が垂れていた。
「だから、待てと言ったのに……頼む、【ライム】!」
ヒイロは懐から小さなレッドスライムを取り出した。
スライムから赤き光が円盤状に広がっていく。
そして、その瞬間、スライムの体が溶けだした。
すかさず、ヒイロは回復魔法をかける。
スライムが、何とか元の形を取り戻しはじめた。
それと時を同じくして、先ほどまで死にかけていたテコイが跳ね起きた。
まるで、何事もなかったかのように飛び起きたのだ。
テコイ自身、確かにこんな不思議な現象は何度かあった。
内臓がはみ出て死にかけていた時、ヒイロが駆けつけると傷が嘘のようにたちまち治った。
俺って、不死身のスキルでもあるんじゃね!
テコイは、本気で思っていた。
俺って、実は、ものすごく強いんじゃね!
テコイは、マジで信じていた。
そこからの四人は、もう、防御など考え無しの無差別攻撃。
攻撃につぐ攻撃。
ただのボコ殴り!
さすがのケロべロススケルトンも、ついには力尽き、砕け散った。
一夜明けた町は沸きに沸いた。
ケロべロススケルトンから街を救った英雄として【強欲の猪突軍団】は名をはせたのだ。
そんな話を聞きつけて、この国のトップアイドル【イーヤ=ミーナ】が取材に訪れる始末。
もう、街あげてのお祭り騒ぎであったのだ。
イーヤ=ミーナが尋ねる。
「今度は、もしかして、国王様が懸賞金をかけているヒドラ討伐とかしちゃうんですか?」
テコイは上機嫌!
「あぁ、もちろん! そのつもりだ!」
「でも、あれって、アリエーヌ様とご婚約中の【マーカス=マッケンテンナ】様も討伐に動いているとか。なにやら国王様が出した、ご結婚の最後の条件らしいですよ」
「なんなら、俺たちが手伝ってやってもいいぞ、ただし、それ相応の謝礼をいただくけどな! わはははははは」
テコイは親指と人差し指で輪を作り、大きな声で笑った。
それが、つい昨日の話。
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