第14話 覚悟


「ルーカス…オレやっぱりやりたくないよ」


「ここまできて怖気付くなんて、キミらしくない。キミのライフル捌きは、最高だ…。さぁ、共にキメラを抹殺しよう」


 工場からそう離れていない森の中で、ライフルを構えるロー。


 ローの顔色は曇っていたが、ルーカスの言われるがままに木に軽々と登りライフルを構える。


 狙うは、シェリルと嬉しそうに抱き合っているチェイスのこめかみ。


「さぁ。ショータイムの始まりだ」


 その言葉と同時に、ローはライフルの引き金を引いた。


 それと、ほぼ同時にチェイスは倒れた。


「やったかい?流石は、ローだ」


 双眼鏡でチェイスが倒れたところを確認すると、拍手をするルーカス。


 しかし。


 撃たれた筈のチェイスが、目を押さえて起き上がったのを確認した。


「ロー…」


「ごめん、ルーカス…ミスった」


 まさかのローの裏切りに、ルーカスは腕を前に挙げた。


 すると、木の上にいたローは地面に倒れ込む。


 ルーカスの魔力は、重力を操ることができるのだ。ローの体には、何重キロという重圧がのしかかっていた。


「ロー…貴様、わざとだな」


「オレ、もう…人を、殺したくない」


 涙ぐむローへの重圧を解き、ルーカスはローの胸倉を掴み上げた。


「人?キメラが人だと言うのか!?姉さんを殺した醜い獣を…」


「ルーカス、もうやめよう…何人キメラを殺したって…アリ姉さんは、帰って来ないんだよ」


 ルーカスの気持ちは、痛いほどわかる。


 でも、だからこそ止めないといけないとローは思った。


 ルーカスは、ローが持っていたライフルを手にしてチェイスを狙ったが、チェイスとシェリルはもうそこには居なかった。


「チッ…逃げたか。他の者は、キメラを探せ…私は、チェイスにとどめを刺す」


「ルーカス!!本当にもうやめよう?」


 ローの手を握るが、すぐに払われてしまう。


「お前は、もう勝手にしろ。でも、私の邪魔をするなら…家族でも容赦はしない」


 そのまま、ルーカスはチェイスたちのいる工場へ向かった。



 一方、チェイスとシェリルは工場の中へ避難していた。


 チェイスがシェリルの手を引っ張りながら、走っていた。


「チェイスくんッ!目!怪我してるッ!」


「大丈夫ッ。掠っただけだから」


 とりあえず、二人は工場の地下室へ隠れた。


 アレは、絶対にオレを狙ってた。なんでだ?誰の仕業なんだ…。でも、それより先にリルを安全な場所へ。


「チェイスくん」


「聞いて、リル。多分狙われてるのは、リルじゃなくてオレだ…。オレが先に外に出るから、リルは反対側に逃げて」


「え?チェイスくんを置いて逃げろってこと?」


「大丈夫。後で、いつもの木下で待ってて」


「嫌だよッ!私も、一緒に…」


「リルッ…。大丈夫だから、ちゃんと後で会いにいくから。ずっと一緒だろ?」


 チェイスのニカッ笑う顔を見て、シェリルは覚悟を決めた。


「分かった。必ず来てね」


「ああ。約束」


 二人は、小指を絡ませて約束を結んだ。


 シェリルは、そのまま地下室から出るチェイスの背中を見送った。


「また後で」


 そう言い残して、シェリルとは別方向へ走って行った。


 オレを狙っている…。魔の国への恨みがあるものか、それとも…。


「フォーコンか」


 チェイスは、フォーコンの存在を知っていた。通称、キメラ狩りと言ってキメラの友人から聞いたことがあったのだ。


「とりあえず、早く片付けてリルと合流しないと・・・」


 フードを深く被り、瓦礫の間から外の様子を伺っていた。


 敵は、何人だ?


 瓦礫の奥から見える森には、殺気が満ちていた。


「あーあ。コレ、死亡フラグじゃね?とりあえず、オリビアに報告して、と…」


 携帯電話で、オリビアに連絡しようとした瞬間。


 ーバァンッ!


 チェイスが、持っていた携帯電話が撃たれてしまった。


「やっぱり、オレを殺したいワケね…」


 どーせ、あと長くて三ヶ月の命だし…ココで死んでも良いんだけどね。


 その時、チェイスの脳裏にはシェリルの笑顔が浮かんだ。


「いや、死んだらダメだ」


 また、あの子を泣かせる子になる。


「まぁ、オレも伊達にジェットブラックの副リーダー張ってるワケじゃねえしな…。さっさと出てきな、相手してやるよ」


 フードから出たチェイスの瞳は、ギラリと輝いていた。

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