第11話 それぞれの覚悟
『チェイス〜まってぇ!』
『まってぇ〜!!』
『二人とも遅いなッ!オレは、もっと早く走れるぜ!!』
オレは、足が速いことが自慢だった。
二人の女の子を置いて先に行って自慢げに立つ自分が好きだった。
でも、いつしか遠ざかる二人に独りになることに怯えていたのはオレ自身だった。
ねえ・・・神様。なんでオレなの?なんでオレはキメラなの?死んで安心されるキメラなんて、要らないじゃん。死ぬ時は、せめて誰かに泣いてもらいたい。望んで良いなら生きて居たい。でも、生きていてまた大切な子を傷つけてしまうぐらいなら・・・死んだ方がマシなのかな。
「イスッ!!チェイスッッッ!!!」
ん?オリビア?なんで?・・・泣いてる?
「生きてッ!!!!!!」
その言葉を聞いて、彼は目を開いた。
「お・・・リビア?・・・ここは」
「チェイスッ?!エリア!!!チェイスが、目を覚ました!!!」
自分の思うように動かない体には、何本と管が付けられていた。少ししてから、オリビアがエリアを呼んで来て事情を話しくれた。
「オレ・・・」
「寝たままでいいわ。オリビア様、少し外で待っていて頂戴」
「え?なんで?私も、話し聞くわ!だって、チェイスは私の側近よ」
「オリビア、後で話すからとりあえず外出てて」
「・・・わかった」
力無く微笑むチェイスの頼みを仕方なくオリビアは、聞くことにした。
オリビアが医務室を出たのを確認してから、チェイスは口を開く。
「オレ、あとどれくらい生きられんの?エリア先生」
「・・・気づいていたの?」
「だって、オレ・・・キメラだもん。自分の寿命ぐらい調べるって」
エリアは、眉に力を込めて伝えた。
「持って・・・一ヶ月」
その言葉に少し驚きを隠しきれなかった。
「チェイスくん。私の力でも・・・」
「分かってる。・・・分かってる・・・」
言葉の重荷をエリアは、感じ取っていた。
「オレ、死ぬんだ・・・」
「怖い?」
エリアは、我ながら可笑しな質問を彼に投げかけた。しかし、彼は真顔でこう呟いた。
「オレは、良いんだ。オリビアが心配・・・アイツ、側近何人もキメラで死んでるの見てきてるから・・・」
「それだけ?」
「え?だってオレ、キメラだもん。元々覚悟の上だよ。・・・でも」
「なに?」
「リルのことがめちゃくちゃ心残り。・・・本当は、幸せにしたかった。誰よりも、このオレが幸せにしたかった・・・。叶わないって分かってる。でも・・・愛してるって・・・ちゃんと伝えたかった」
耳を垂らして、泣きながら弱音を吐くチェイスの姿が過去の自分の姿と重なった。でも、一つだけ違うのはまだ彼には時間があることだ。
「チェイスくん・・・。アナタには、まだ猶予がある。ちゃんと伝えなさい・・・その時が来るまでに」
エリアの真剣な言葉に、チェイスは頬を流れた涙を拭きながら口を開く。
「言えない。それは、リルにとって呪いになってしまうから・・・。あの子は、オレが死んだ後も一人でオレの死を背負い込んでこれからの人生を歩んでいくなんて・・・そんなの可哀想だ」
「なにが、可哀想なの?本当の可哀想って言うのはね・・・なにも言ってもらえず目の前から、居なくなられることなんだよッ!!呪い?そんなの上等!!だって言えるほど・・・リルちゃんは強くないの?アナタが、惚れた相手は、そんなに弱い子だったの?・・・それとも、チェイスくんはリルちゃんが嫌い?もう、会えなくて本当にいいの?」
エリアの言葉と共に浮かんできたのは、優しく微笑むシェリルの顔だった。
このまま、会えなくなってもいいのか?本当に・・・もし、少しでも我儘をキメラ族のオレでも我儘を言っても良いのなら・・・。
「会いたい・・・。シェリルのことを心から愛してる」
「それは、本人の前で言ってやりなさい」
その会話を医務室の前で全て聞いていたオリビアは、エリアが自分のことのように怒っていたのはきっと自分の恋愛と重ねていたのだと気がついた。
その後、エリアは医務室の扉を開きすぐ側にいたオリビアと目が合った。
「あら、立ち聞きなんてお下品よ?オリビア様」
「エリア・・・ずっと言おうか悩んでいたのだけれど、クレアには新しい恋人ができたらしいの・・・クラウディアのパトロール中に男の人と手を繋いでいるのが見えて。・・・でも、ずっと言おうか言わないかずっと悩んでて・・・」
その話しを聞いたエリアは、少し驚いた表情はしたもののすぐに冷静にな顔で口を開いた。
「オリビア様・・・私が望むのは、クレアの幸せです。あの子がまた笑っているそれだけで、私は満足なんです。教えてくださりありがとうございます・・・」
エリアは、そっと頭を下げた。
「私達の恋は・・・終わってしまったけれど、アナタたちの恋はまだまだこれからでしょ。・・・オリビア様も」
そのまま、エリアは自室にカルテを書きに戻った。
残されたオリビアとチェイスは、それぞれの覚悟を決めた。
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