第10話 二人の秘密


 昔の夢を見た。


 まだ十歳くらいの時の夢。


 オレが、初めてキメラになった日の夢。大切で堪らない子を傷つけた夢。


 一日だって忘れたことは無かった。シェリルの・・・リルの叫び声に、あの首から肩に掛けてのあの傷跡。必死にオレを止めているオリビア。


 すぐに人格を取り戻したけど、リルに一生残らない傷を残してしまった。


 それは、決して消えてはくれない真実だった。


「イス・・・チェイス」


「ん?ああ、悪い悪い。なんだっけ」


「私、リアムさんと・・・ううん。先生と別れた」


 魔の国の談話室にて二人は、話していた。


「チェイスが正しかった。神の国の住人と魔の国の住人が釣り合う訳ないのに・・・」


 オリビアの目の下には、軽く隈が浮かんでいた。


「大丈夫か?」


「まぁ・・・なんとかなるでしょ。それより、アンタこそ大丈夫なわけ?」


「なにが?」


「さっきから、真面目な顔しちゃって・・・なんかあったんでしょ」


 チェイスは、オリビアに恐る恐る聞いてみた。


「あのさ・・・オリビアって、顔と性格に似合わず頭いいじゃん?」


「なに?アンタ、喧嘩売ってるの?」


「いや・・・キメラの寿命って幾つまでだっけ?」


 その言葉にオリビアは、目を見開いた。しかし、それに構わずチェイスの口は止まらない。


「オレが調べた時は、確か二十五歳・・・。オレが今、二十二歳・・・それを考えると次のお前の側近は誰になるのか、そろそろ・・・「やめてッッ!!!」


 まだ続けようといていたチェイスの言葉をオリビアは、遮った。


「もう、誰も居なくならないで・・・」


「オリビア・・・。現実を見ろ・・・オレは、キメラだ。いつまでもお前の側にいられる。なんて保証はない」


 ソファーチェアに、体育座りをして顔を伏せ始めたオリビアの頭をチェイスが優しく撫でた。


「みんなそうやって居なくなる。ルルアも、マキカも、ユミも、デイアも・・・次は、チェイスなの」


「オレたちキメラ族は、そう長くは生きていけない。決まってるんだよ」


「やだよ。なんでよ、私たち親友でしょ?お願いだから、居なくならないでよ」


「オリビア・・・」


「私がなんとかして見せるから」


「どうやって?魔の国の七割がキメラ族だ。魔の国が無くなるのも時間の問題だろ」


「させないッ。私が、この国を守って見せる。・・・チェイスは、リルとずっと一緒に居たくないの?」


「・・・リルとはもう会わない」


「は?それどういうこと?」


「オリビアだって忘れた訳じゃないだろ?・・・リルのあの傷。アレは、オレがやったんだ・・・オレが、リルを傷つけたんだ。それは、オレは・・・オレたちは隠し続けて・・・。これ以上抱えきれない・・・ここの所、毎晩毎晩同じ夢を見るんだ・・・。あの時の・・・」


 段々とチェイスの息が上がって、胸を強く押さえつけた。


「チェイス?」


「あの時の・・・真っ赤になったリルをオレはッ・・・」


「ちょっと、チェイスッ!!誰かッ!!!エリアを呼んで!!!!!早くッッッッ!!!」


 チェイスは、そのまま床に倒れ込み意識を手放した。

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