第9話 崩れていく関係
リアムとオリビアの破局は、すぐにシェリルとチェイスの耳に入った。
クラウディアにある公園のベンチで、シェリルとチェイスは座り込む。
「あれから、オリビアはどう?」
「ずっと部屋から出て来ないし、何にも食べない」
「え・・・大丈夫なの、かな」
「まぁ、すぐに仲直りするんじゃないか?先生の方がよく魔の国に来てるし」
「そっか・・・」
「それより、なんか久しぶりだな。リルとこうやって二人きりで話すの・・・」
「私も思った!!チェイスくんったら、全然メールもくれないし・・・この前の件も何にも話してくれないから・・・」
最後の方だけ、シェリルは小声になった。
「ごめん。リル」
「でも!!今日、そっちから会おう。って言ってくれたから嬉しかったよ」
「リル・・・」
「あっ!ねえ、このあと一緒にランチしようよ!折角の休日なんだからさ?いっぱいデートしよ」
「リル・・・聞いて」
チェイスの真面目な声に、嫌な予感がした。
「オレたちの関係・・・終わりにしよう」
「え?」
突然の言葉にシェリルは、胸に銃弾でも撃ち抜かれたように思えた。
「私なんかした?」
「違う」
「私のことき、嫌い?」
「違うッ!!!」
「じゃあ、なんで?」
「オレは、魔の国の住人だ」
フードから見えるチェイスの瞳は、潤んでいた。
「だから?」
「それに・・・キメラだ。神の国の次期女王の恋人が魔の国の住人で、しかもキメラだって知られたら・・・ヤバイだろ」
「そんなの誰も気にしないよッ?私は、チェイスくんのことが大好きだよ?!それじゃあ、足りない?」
チェイスの目に飛び込むのは、シェリルの首筋に微かに残る引っ掻き跡。
「ごめん・・・。もう、オレたちには構わないでくれると助かる。先生にも伝えておいて・・・今まで、楽しかったですって・・・」
「やだ」
「リル・・・」
「神の国だからなに?魔の国だからってなに?キメラだからってなに?!私は、魔の国の住人でもキメラでも良い!!チェイスくんのことが好きなの!!」
彼女の言葉が声が、心に響く。とてつもなく心が締め付けられた。
しかし、彼にはそれ以上に苦しいトラウマがあるのだ。愛しい彼女をこれ以上苦しめたくない。その気持ちが、チェイスの中では一番に大きかった。
「リル・・・ごめん」
チェイスは、一度も振り向かないまま公園を後にした。
ベンチで少しの間動けないでいたシェリル。涙が溢れ出した。
「あー!!いたぁ!小リスちゃん探しちゃったよぉ?」
そこに現れたのは、ローだった。
「なに?」
「この前のオレの生まれて初めての告白の答え聞きたくて」
「即答で無理です。って、答えましたけど」
「だって、理由聞いてないもーん・・・?て、あれれ?小リスちゃん泣いてる?」
急いで、ローに背を向ける。
「どうかしたの?」
「うるさいです。あっち行って下さい」
その言葉をなにも聞かずに、ローは彼女の隣に腰を下ろした。
「オレ、人生で一回しか泣いたことなくてさ。その一回ってルーカスの母親が亡くなった時なんだよね。元々、オレ親いなくて物心ついた時からルーカスの母親がオレとルーカス育ててくれてて、抱きしめて貰った時とか、嗚呼こんなにも暖かいんだ。って思ったんだよね。あんなに暖かい人が、どんどん冷たくなって行くのが怖くて、辛くて、悲しかった。末期の流行病だって魔の国のエリアっていう医者に診てもらったんだ。冷たくなるルーカスの母親の手を握るオレたちに、魔の国の次期女王が行ったんだよね。『私たちには、その人は救えない。でも、あなたたちには救えたと思う。この人の心は、救われたと思うよ。だって、こんなにも思って泣いてくれる人が居るんだもん・・・。だから、この人は幸せよ』て。涙って、その人のことを大切に想わないと、出てこないから・・・。だから、小リスちゃんもすごくあのキメラが好きなんだね」
ローの話しを聞いているうちに、どんどん涙が溢れ出して止まらなくなってしまったシェリル。彼は、そんな彼女の肩を抱き寄せた。
「辛い時は、いっぱい泣きな?誰にも見られないように、オレが見張っててあげるからさ」
「うっ・・・あり、が・・・とぅ」
精一杯の言葉がそれしか出てこなかった。
ローは、力一杯シェリルを抱きしめてやった。まるで、昔母親代わりのルーカスの母のように。
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