喰いしばる

 吸う息も吐く息も熱くて、全身が燃えているみたいだった。バス停の待合室には俺しかいなくて良かったと心底思う。ドクドクと暴れる心臓を落ち着けながら、滝のような汗を半袖のTシャツの裾で拭った。

 見慣れた県交通のバスがバス停に停車した。中には部活帰りの中高生がいっぱい乗っていたが、一番前の椅子が空いていたのでそこに腰を下ろした。しばらく揺られていくと、終点の県立の病院についた。

 病院の中はバスの中とも外の炎天とも違って、別世界に来たように不思議な体感だった。ぬるい空気をかき分けて窓口の看護師さんに案内してもらい、洸一のいる病室へと通された。

 静かに病室の扉が開けられて、中に先に看護師さんが入っていく。病室の窓からは雲一つない青空が見えていて、ベッドの端とカーテンが逆光の中シルエットを浮かべていた。

「洸一……」

 病室のベッドに横たわったまま、ピクリとも動かない。腕から伸びる点滴のチューブ。ただ眠っているようにしか見えない。

 洸一のお母さんがそのベッドの横に座り、悲しそうにその手を握っていた。

「俺が連れてったから……こんな事に……」

 入り口にたたずみ小さくつぶやいて拳を握り締める。俺はおおよそ、母親という人のあんな悲しそうなやつれた顔を見たことは無い。

 やりきれない思いで、胸が張り裂けそうだった。

「あら、浩太君。来てくれたのね」

 そんな俺に気が付いて洸一君のお母さんはねぎらいの言葉をかけてくれた。恐ろしいほどやさしい言葉が、俺の中にさっきの漬物石とは比べ物にならないほど沈み込んでいく。


 ぐちゃぐちゃの感情が俺の胸の中で暴れていた。

 

 その後のことはよく覚えていない。

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