息苦しい暑さ
学校から家に帰り、俺は部屋に駆け上がった。
「お昼はー?」
おばあちゃんが下の階から呼んでいたが
「後で食べる!」
と、荒っぽく返事をして、いつも出掛ける時のカバンに手を伸ばした。わずかに貯めてあったお小遣いを財布を放り込み、おばあちゃんのいる茶の間を通り過ぎて再び玄関を後にした。
外は相変わらずうだるような暑さだ。おまけにむしむしして息苦しささえ感じる。蝉時雨に打たれながらアスファルトをにらみつけて、歩いて十分ほどのバス停を目指した。
家を出て少し行ったところのゴミ捨て場の前で、ご近所のおばちゃんたちが井戸端会議中だった。その脇を通らねば次のバスに間に合わない。俺は仕方なく、しかし元気よく「こんにちは」ときちんと挨拶すると、井戸端会議中のおばちゃんたちはにこやかにほほ笑んでこちらへと視線が移った。
「浩太君こんにちは」
「お出かけ?」
近所のおばちゃんたちはいつもこうして、何時間も話している。俺ももう顔見知りだ。
「はい、少し友達のところまで」
「そう、気を付けてね?」
「ありがとうございます」とすこし頭を下げて足早にその場を離れた。
「あれから八年も経つのね……」
「あら、そんなに経ったかしら。佳奈さん、若かったのにねぇ」
「浩太君もかわいそうに……なんでも、今度はお友達が溺れて意識不明の重体らしいわよ」
「お母さんも亡くして、今度はお友達も亡くしちゃったら……」
「ちょっと!縁起でもないわよ」
後ろから微かに聞こえたおばちゃんたちの声が、言葉が、俺の中に漬物石みたいにのしかかってくるのが分かった。
それを振り切ろうと、俺はまた全速力で駆け出した。
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