不自由な視線


 次の日。

 

 どうしても夏休み中に学校に行く必要があった。と、言うのも読書感想文用に借りていた本の返却が今日までになっていたためだった。

 正直行きたくはなかったが先生に呼び出されるのも嫌なので、誰にも会わないことを願いつつ向かった。小学五年生の夏休みは、それほど自由じゃない。宿題に追われるように机に向かって、暑くてなにも進まない。そんなもんだ。

 学校の昇降口は閉まっているので、先生用の入り口から図書館へと向かう。先生たちの下駄箱の前に並んだ靴から、残念ながら学校には俺以外の生徒もいることが分かってしまった。

「ねぇ、知ってる? 四組の洸一君。夏休み中に海でおぼれて、今も意識不明なんだって」

「私もニュースで見たよ。確か、友達と一緒に遊んでたんでしょ?」

 そんな風にヒソヒソ噂する女子生徒たちの視線を掻い潜る。図書館には勉強と称して遊びに来ている生徒が数名、4人掛けのテーブルに算数のワークらしきものを広げていた。

「誰なんだろうね? 一緒に遊んでたの」

「だって洸一君四組だもん、きっと四組の人だよ……」

 カウンターで本を返し、入口に向かおうとした俺とテーブルの女子たちの目が合う。すぐに逸らされたが、あれ以来、みんなの視線が突き刺さるようになった気がする。その視線ほど、居心地の悪いものは無かった。

 俺はその視線から逃げるように図書館を抜け出して、怒られることも厭わずに廊下を全速力で走りだした。

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