第9話 工場村の片隅で

月曜日、北海道土産を現場と事務所に持っていった。

定番?の“白い恋人”コスパがいいし、行ってきた場所言わないで済むし・・・

事務所に行ったら同期入社で4コ下の安倍亜依ちゃんが居た。

亜衣ちゃんは昔“泣かせる系ドラマ”にでていたおっとり系女優さんみたいかな。

「おはようございます青木さん。旅行行ってきたんですね?」

「ウン!大学時代の悪友と馬、見てきた。定番土産ですが、食べてください。」

亜依さんのフフフと笑った顔がかわいい。

亜依さんは俺の現場の班長と付き合ってるという話しがある。

まあ〜 お似合いかな・・・


この工場では作業帽を糊で固めてアイロンがけしている人がかなり居る。

それがまるで折り紙で折った兜みたいに見える。

俺はアイロンすら持ってないのでいつも帽子はシワシワだった。

現場係長に「亜依ちゃん、青木君の作業帽アイロンがけしてくれないかな?」って告げられて

「毎日というわけじゃないですし、いいですよ!」

って軽く受けてくれた。

亜依ちゃんに週一くらいでピシッとした作業帽にしてもらい、少し気恥ずかしかった。


ある休日の朝の男子寮で、俺は寝癖のひどい髪をなおそうと共用の洗面所へ向かった。

ボォ〜とした顔を洗っていたら、現場班長の部屋から亜依ちゃんが眠そうな目を擦りながら出てきた。

亜依ちゃんは俺を見て少しビクッとしたが

「おはよ〜、またね〜。」

って眠そうな顔で女子寮のほうにトコトコ歩いていった。

なぜだか俺は胸がいたかった。


作業帽のアイロンがけを半年位してもらって俺は亜依ちゃんにお礼しようとしたが、

「そんな事、いいですよ〜。」

っていつも断られる。

俺は意を決して「舞浜テーマパークの明日のチケット取ったから一緒に行こう!」

やけくそになって誘ったら

「今日は少し強引なんですね!いいですよ。」って言ってくれた。

えっいいの?たぶん俺ポカンと口開けてたと思う。

これってデートになるの?


朝、工場の駐車場で待ちあわせして俺の車で向かう。

亜依ちゃんが「眠くならない様に!」ってガムをくれて一緒にかんでた。

俺がガムをかみ終わり、口からだそうかなと思ったら、紙を渡される。

「えっ?なんで分かったの?」

「私も終わりかな! と思ったので・・・」

・・・ん〜気が利く。

バカな俺はこんな事で気持がたかぶる。


テーマパークに着いて亜依ちゃんと一緒に居るだけでドキドキする。

デートでは男女は手を繋ぐ?

ここではどうなんだ?

俺はトラウマばかりで自分から手を繋ぐ事すら出来なかった。

パーク内の3D映像アトラクションの列に並んでたら、亜依ちゃんは眠そうになってる。

亜依ちゃんに少しの間、俺の肩を貸して寄りかかって貰う。

半分寝てる亜依ちゃんもかわいい。

3D映画はもの凄い爆音で椅子の振動も凄い。

でも、亜依ちゃんは寝ていた。

爆睡だった。

「終わったよ、起きて!」

って揺り起こす程、爆睡してる。

さすがにまだ、眠そうなのでファースフードの店で休憩した。

無防備に俺の肩に頭をのせてくる亜依ちゃんの寝顔を見ていたら、いろいろな妄想が湧いてくる。

でも、俺は“焦らず順番を追って亜依ちゃんと付き合っていこう。”なんて考えていた。


デートはあっという間に終わり、車で寮へ向かう。

俺が運転していたら、亜依ちゃんが話しだした。

「私ね、来月現場班長と結婚するの!」

「今日の事、彼に話したら・・・ “ヤツなら大丈夫だから行って来い”って言うの!」

「青木さん、今日は楽しかった。ありがとう。」

俺はこの後どうやって帰ったのか覚えて居ない。

なんだか全てがどうでもよくなった。


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