第9話 イナカマチ区画の来訪者 9
イナカマチ区画にある一際大きい屋敷。屋根の瓦の間に二つ並んだ鷹の羽の家紋を飾った旧家という言葉がふさわしいような、古く、大きな木造の建物だ。その屋敷の庭に、独楽と若利、信太は連行されていた。
縄でぐるぐる巻きにされている二人と一匹の目の前に、帽子をかぶった白スーツの男が現れる。跳ねた金髪をした男は独楽達を見るとニコリと胡散臭い笑顔を浮かべた。
「これはこれは若利様。逃げながら女性(?)と逢瀬とは、ずいぶんと優雅なお身分ですね?」
「何か今、女性って所で疑問符が浮かびませんでしたか?」
「いやいや気のせいです、お嬢さん。それから可愛い子ぎつね君。初めまして、僕はパオロと言います」
パオロと名乗った男は帽子を取って、独楽に向かって恭しく頭を下げる。絶対に気のせいではなかったと独楽が憮然とした顔をしている隣で、若利が縄に縛られたまま肩をすくめた。
「優雅な身分ならば、頭に蜘蛛の巣などつけて縄でぐるぐる巻きにはされておらんだろう」
「おや失礼、新しいお洒落だと思っておりました」
嫌味か皮肉か、どちらにせよ好意的な言葉ではないな、と独楽が思っていると、同じように転がされていた信太が、
「蜘蛛の巣をひっつけてグルグル巻きにされていないのは、流行おくれです?」
と、パオロを見上げてこてりと首を傾げた。独楽と若利が思わず噴き出し、途端にパオロの表情がぴしりと固まる。
「…………しゃべった?」
しばらく固まった後、ようやく動き出したパオロの目は信太に釘付けである。独楽が「ん?」と目を瞬いていると、
「何と! しゃべる子ぎつねとは珍しい! 魔獣ですか? 魔獣ですか!?」
と、飛びつくように信太の目の前にやって来た。信太がびっくりして目を丸くしていると、
「ああ、すごいですね! かわいい、しゃべる上に可愛い魔獣とは、最高ではありませんか! ふむ、この姿はリベルタ区画にはいないタイプ、いやぁ実に見事! 実に見事です!」
などと勢い良くまくし立てる。先ほどまでの丁寧な態度をかなぐり捨てたパオロはとても興奮しているようで、目は爛々と輝き、鼻息も荒い。そんな様子で信太をじろじろと舐める様に見るパオロに、イラッとしたのは独楽だった。
「うちの信太を邪な目でみないでいただきたい」
「ああ、あなたが飼っている魔獣ですか? 素晴らしいです、欲しいです、下さい!」
「信太は魔獣ではありませんし、飼っているわけでもありません。ですが、うちの信太を邪な目で見ないでいただきたい」
「そうですか!? なら僕が貰って良いですか? いいですよね? ね?」
人の話を聞かずにまくし立てるパオロに、ついに独楽の苛立ちが降り切れた。
「い・い・わ・け・が・あるかッ!」
ザッと立ち上がると、パオロの横っ面目がけて回し蹴りを繰り出した。
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