第7話 イナカマチ区画の来訪者 7
食事を終えた独楽は、満足そうに手で腹を撫でながら、幸せそうに息を吐いた。
「ああ、食事って素晴らしい……」
「けぷ」
独楽の隣では満腹になったらしき信太が、ころんと転がっている。
そんな二人を見て、若利は満足そうに頷笑った。
「うむうむ、そいつは良かった」
「いや、本当に助かりました。ここ二日ほど、ほとんど何も食べていなかったので」
「それはまぁ……この暑い中、よく無事だったな」
目を丸くする若利に、独楽は顔をかいて笑う。
「まぁ、水だけで何とかギリギリで。あれ以上だと、きつかったですけれど」
幾ら神雷を使ったとは言え、半獣になったくらいで倒れるのは、相当ギリギリだったようだ。自己認識と現実のズレに独楽は苦笑した。
「それよりも、あなたこそ魔獣に追いかけられて良く無事でしたね」
「まぁ慣れているからな」
「慣れているんですか? そんなに頻繁に魔獣が現れるんですか?」
「いいや、普段ならそれ程でもないさ。イナカマチ区画は、今ちと厄介な事になっていてな」
「厄介?」
「魔獣を消し掛けてくる連中に乗っ取られかけている」
唐突に話された物騒な話に、独楽は目を丸くする。
「これはまた、いきなりヘビィな話題が来ましたね」
「信太は蛇はちょっと苦手です」
「重い方のヘビィですよ」
「一文字違いで大違いです? 言葉って難しいですなー」
「あっはっは。信太は賢いな、そう、言葉とは難しい物だ」
「変な事を教えると直ぐに覚えちゃうんですよね」
「それは面白い」
目を輝かせた若利に、独楽が「しまった」と苦い顔になる。教えてはいけない人に教えたような、そんな気がしたからだ。
「それで、話を戻すが。イナカマチ区画の隣にはリベルタという区画があってな」
「リベルタ区画? 大区画じゃないですか。でも確かリベルタ区画はもっと北の方じゃありませんか?」
「小さい区画の要石を奪って勢力を広げているんだ。ついこの間、隣の区画が奪われた」
この継ぎ接ぎ世界には、数多の世界から強制的にやって来させられた数多の世界の住人達が存在している。だがその全てが「仲良くしましょう」などと言うはずもなく。他所の区画を侵略して、自分達の支配下に置いてしまおう、とはた迷惑な事を考える区画も存在していた。
独楽は腕を組んでむう、と眉間に皺を寄せる。
「それで次はイナカマチと。何とも迷惑な話ですね」
「全くだ。自分達の区画を栄えさせる事だけで満足しておれば良いのに、欲の深い連中だ」
「ちなみにいつから攻め込まれているんですか?」
「一週間前からだな」
「はぁ、それはまた最近…………うん? 一週間前?」
一週間前、と聞いて、独楽は懐から『イナカマチ区画の守り人募集!』と書かれたチラシを取り出した。確か一週間前に、独楽はそのチラシに書かれた電話番号に電話をしたはずなのだ。一週間前から攻め込まれているならば、早々呑気に電話に出てくれるものだろうかと、ふと疑問に思った。
「どうした?」
「いえ、実は一週間前に、このチラシに書かれていた電話番号に電話をして、面接についての話をしたんですけれど」
「ふむ? そのチラシは確かにイナカマチ区画で出したものだが、そんな電話が来た覚えはないな。その頃はその電話が通じる場所は、連中に占拠されていたはずだが」
「え?それでは、面接の約束は……」
「奴らとしたのではないか?」
「コンチクショウ!」
独楽が怒り任せに、両手の拳を地面に叩きつけた。
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