第931話 そこの優男、10秒以内に自分の妻の好きなところを3つ答えよ!

 重治は従魔達の召喚を解除してリルに連れられて戻って来た。


「いやぁ、自分のLUKの低さを思い知りました」


「黒川さん、お疲れ様です。それでもドラムをテイムできただけ良かったんじゃないですか?」


「そうですね。想定していなかった戦力強化ができたと思えば、踏破タイムは二の次です。前向きに考えますよ」


 苦笑する重治に藍大がまあまあと声を駆ければ、重治もドラムをテイムできたことはプラスに考えていたので気持ちを切り替えた。


 重治と入れ替わりで闘技場ダンジョンに移動した理人は陸上でも動ける従魔を召喚して準備を整えていた。


 スクリーンには理人を除いて3体の従魔が映し出されている。


 1体目はサファギンロイヤルガードのナイト。


 2体目はMOF-1に出場経験のあるメロシールのマーレ。


 3体目はエルダースキュラのスウェナ。


 スウェナの本来の姿は上半身が人間の女性で下半身は魚、胴体から六頭の犬という見た目だが、エルダースキュラになって<人化ヒューマンアウト>が使えるようになった今は女戦士風の見た目になっている。


 陸上での戦いにおいてはナイトが盾役タンクでスウェナが近接戦も遠距離戦もできる中衛、マーレが攻撃、回復、支援を行う後衛という役割だ。


 フロアボスがアビスクラーケンならば、水場でしか召喚できない従魔も召喚できるから戦力アップが見込めるけれど、最初に召喚できるのはナイトとマーレ、スウェナの3体である。


 早速、理人のパーティーが闘技場ダンジョンの中に入った。


 そこで待ち受けていたのはクロコッタだった。


 1階でクロコッタが出て来るのは雑食神と同じパターンである。


『アナッ!』


 クロコッタは出会い頭に<破壊爪デストロイネイル>で攻撃を仕掛けるが、それはナイトが前に出て盾を構えて防いだ。


『接近戦がお好み?』


 スウェナが嬉しそうにそう言いながら接近し、<氷結拳フリーズナックル>でアビリティを発動して隙が生じたクロコッタの顔を殴りつけた。


 殴られたクロコッタはバランスを崩して大きく体を仰け反った。


『プォ!』


 今がチャンスだと判断したようで、マーレが<水支配ウォーターイズマイン>でクロコッタの顎を狙って水柱を生じさせる。


 これによってクロコッタは背中から地面に倒れた。


『あら、丁度良いところにサンドバッグがあるわ』


 スウェナは嬉々としてクロコッタの上に馬乗りになり、<氷結拳フリーズナックル>を連発してクロコッタを容赦なく殴りまくった。


 スクリーンに映るスウェナの野蛮な行動を見てサクラが思ったことを口にする。


「舞がヒャッハーせずにドSになったらあんな感じかも」


「サクラ~、あんまり酷いこと言うとハグしちゃうよ?」


「私よりもブラドをハグした方が良いと思うの」


「桜色の奥方、それは酷いのである。なんのためにフィフィを用意したと・・・。あっ、今は家にいるのだ」


 サクラが自分の身代わりとしてブラドを舞に差し出そうとするから、ブラドは自分の身代わりであるフィフィがいるじゃないかと言った。


 ただし、イベントにフィフィは連れて来ておらず、今は子供達と一緒にいるのでブラドはしまったという表情になった。


 ブラドがとばっちりを受けるのはかわいそうだと思い、藍大はブラドに助け舟を出す。


「サクラ、なんでもかんでもブラドを身代わりにしちゃかわいそうだろ。それに舞は食べられる相手に対してドSにならないからその例えには無理がある」


「うん。ブラド、ごめんね」


「主君、感謝するのだ!」


 サクラは藍大に嫌われるようなことはしたくないから、すぐにブラドに謝った。


 ブラドは自分のピンチを助けてくれた藍大に感謝して抱き着いた。


 これには舞が藍大を羨ましそうな視線を向ける。


「ブラドが自分から抱き着いてくれるなんて良いな~」


『舞、落ち着いて。代わりに僕を撫でて良いよ』


「リル君ありがと~」


 なんですってと真奈が立ち上がったけれど、触らぬ神に祟りなしなので誰も触れたりはしなかった。


 藍大達がじゃれている間に理人のパーティーはクロコッタを討伐して戦利品回収を済ませていた。


 2階に移動した理人達を待ち受けていたフロアボスだが、メカスフィンクスと表現するのが相応しい外見のスフィンクスフレームだった。


 シャングリラダンジョン地下12階で”掃除屋”になっているスフィンクスと同様に<謎解強制リドルフォース>と<絶対注目アテンションプリーズ>を使える。


『全員注目!』


 <絶対注目アテンションプリーズ>の効果で理人達はスフィンクスフレームから目が離せなくなった。


 続けてスフィンクスフレームは<謎解強制リドルフォース>を発動する。


『そこの優男、10秒以内に自分の妻の好きなところを3つ答えよ!』


 スフィンクスフレームは<分析アナライズ>が使えるから、理人が妻帯者であることを理解して質問を出した。


 それが謎解きなのかという疑問はあるが、10秒以内にツンドラクイーンの二つ名を持つ瀬奈の好きなところを3つ言えという質問は一般人にとってかなり難問だ。


 そうだとしても、理人はこの質問に答えなければスフィンクスフレームの攻撃よりももっと恐ろしいものがこのイベントの後に待っているなんてことになり得る。


 理人にとって瀬奈の好きなところを答えるのはさほど難しくないのだが、その答えを藍大達にがっつり聞かれているというところがネックである。


 瀬奈が藍大達に知られて恥ずかしいことを答える訳にいかないので、理人は頭をフル回転させなければならなかった。


 5秒過ぎたタイミングで理人は用意した答えを口にする。


『1つ目がツンデレなところ。2つ目が頼もしいところ。3つ目が私の従魔には優しいところ』


 ツンデレと聞いて大会議室では真奈が口を挟まずにはいられなかった。


「ツンデレの比率は9:1ぐらいですよね。理人さん、実はドMですか?」


「従魔には優しいって言うあたり、自分にもうちょっと優しくしてほしいって思ってる感じがしますね」


 白雪も気になった点があってそれを口にした。


 理人なりに頑張って考えたのだろうが、どうしても他の参加者達からのツッコミは出て来るのは仕方のないことだろう。


 大会議室にいる参加者達のリアクションはさておき、スフィンクスフレームは理人が一般的な難問を答えたので次の質問を出そうとした。


 だが、今度はナイトがスフィンクスフレームの好きにさせなかった。


『こちらを見ろ!』


 ナイトも実は<絶対注目アテンションプリーズ>を会得しており、スフィンクスフレームの全能力値が半減している隙を突いたのだ。


 <謎解強制リドルフォース>を発動できない今、全能力値が半減しているスフィンクスフレームなんて敵ではない。


 ナイトとマーレ、スウェナの総攻撃であっさりとスフィンクスフレームは倒れた。


 戦利品回収を終えたタイミングでタイムは35分を経過した。


 このペースなら暫定1位になれるため、理人のパーティーは急いで3階へと進んだ。


 1位になれるかもしれないという期待を抱いた理人を後押しするように、3階のボス部屋ではアビスクラーケンが待ち構えていた。


 (2階でカミングアウトをした報酬だろうか)


 藍大と同じような感想を大会議室にいる誰しもが抱いた。


 瀬奈の好きなところを人前で答えるだけで自分が知らなかった水棲型モンスターをテイムできるならば、理人にとってそのカミングアウトなんて全く問題ない。


 アビスクラーケンを目にした理人は追加戦力を召喚する。


『【召喚サモンソーダ】【召喚サモンマリブ】』


 ソーダと呼ばれた従魔はアスピドケロンと呼ばれる甲羅が小島の亀だ。


 マリブと呼ばれた従魔はマカラという牙が鋭い巨大魚である。


『アビスクラーケンをテイムする。みんな、力を貸してくれ!』


 理人が従魔達に協力を頼むと、全員が頷いてテイムの隙を作るべく行動を開始する。


 ソーダとマリブが両脇からアビスクラーケンを攻めれば、正面の守りが手薄になる。


 そこにナイトが<絶対注目アテンションプリーズ>で更にヘイトを稼ぎ、マーレが後方から<水支配ウォーターイズマイン>でアビスクラーケンの動きを封じにかかる。


 アビスクラーケンは理人が自分をテイムするつもりだとわかって苛立ち、両サイドから攻めて来るソーダとマリブが邪魔なのにナイトから目を離せず、マーレの攻撃も鬱陶しくてイライラがピークに達した。


 その結果、<深淵支配アビスイズマイン>で深淵のレーザーを無差別に発射するようになり、理人がアビスクラーケンに近づくのが難しくなった。


 倒すだけならガンガン攻撃すれば良いけれど、テイムするには倒してしまわないように気を遣うからその分だけ労力が要る。


 最終的に他の従魔の力を借りたスウェナがアビスクラーケンの体を凍りつかせ、氷が解ける前に理人がアビスクラーケンに接近してテイムが完了した。


 2階までは良いペースだったけれど3階でのテイムに時間を費やしてしまい、理人の踏破タイムは1時間40秒で暫定2位になった。


 リルが理人達を大会議室に連れ帰った後、時間も丁度良いので藍大達は昼休憩に入った。

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