第928話 結構です。その対価としてモフられたくないのでお断りします

 1週間後のイベント当日、藍大は参加者とゲストを連れてシャングリラリゾートのホテルの大会議室にやって来た。


「それではこれよりクラン対抗ボスラッシュタイムアタックを始めます。早速ルールを説明します」


 藍大は円滑にイベントを進めるべくさっさとルール説明を始めた。



 ・当イベントに参加できるのは1クラン1パーティーのみ

 ・1パーティーは神、人間、従魔のいずれも参加して良いが枠は6つまで

 ・籤引き順に参加者のパーティーが闘技場ダンジョンに挑む

 ・1パーティーの戦闘回数は3回で1フロアあたり1体のボス戦を行う

 ・各パーティーが対戦するフロアボスは部屋の扉を開けた時にランダムに決まる

 ・倒したモンスターはダンジョンに吸収されない限り倒したパーティーの物

 ・挑戦の様子は”ホワイトスノウ”のドローンで観戦可能

 ・カウントアップは参加者がダンジョンに始まった瞬間から始まる

 ・カウントが止まるのは3階のフロアボスを倒した時とする

 ・降参する場合は大きな声で宣言することで戦闘終了とする

 ・藍大のパーティーは最後にチャレンジする

 ・上位3パーティーは日本を代表する伊邪那美より表彰される

 ・藍大のパーティーよりもクリアタイムが速ければ藍大から追加でプレゼントあり

 ・挑戦していかなる結果になっても参加者の自己責任



 以上のルールが読み上げられたが、どの参加者からも異議は申し立てられなかった。


「それでは籤引きで1~9番の順番を決めますので皆さん集まって下さい」


 この時だけリルは藍大から離れていた。


 何故なら、真奈が藍大に近づいたからである。


 真奈ならば転ぶ振りをしてリルをうっかりモフモフするなんてこともやりかねないから、リルが藍大から離れるのは当然だろう。


 ラッキーモフモフを狙っていたのか真奈は前に出た時にしょんぼりしていたけれど、イベントの円滑な運営のためなら藍大はスルーしてみせる。


 籤引きの結果は以下の通りとなった。


 1番がDMU探索班の等々力沙耶。


 2番が”雑食道”の伊藤狩人雑食神


 3番が”ブラックリバー”の黒川重治。


 4番が”ブルースカイ”の青空理人。


 5番が”迷宮の狩り人”の丸山武臣マルオ


 6番が”ホワイトスノウ”の有馬白雪。


 7番が”グリーンバレー”の菊田結衣。


 8番が”近衛兵団”の神田睦美。


 9番が”レッドスター”の赤星真奈モフ神


 10番が”楽園の守り人”の逢魔藍大。


 リルに触れられないならば、せめて挑戦する順番だけでも近づけてみせる真奈には苦笑するしかあるまい。


「ということで、1番は等々力さんです。ゲストの茂から一言あればどうぞ」


「等々力さん、1番なら目立てるチャンスだ。爪痕を残せるよう頑張れ」


「頑張ります!」


 今日のイベントだが、ゲストとして茂が参加している。


 これは茂が自分のいないところで藍大達に好き勝手されるのが心配だからだ。


 それに加えて各クランのテイマー系冒険者の強さを比較する絶好の機会なので、戦力調査の名目でこの場にいる。


 リルが沙耶とその従魔を<時空神力パワーオブクロノス>で闘技場ダンジョンに送り届けて戻って来た。


 一仕事終えたリルは小さくなって椅子に座っている藍大の膝の上にふわりと飛び乗る。


「リル、この後もよろしくな」


『任せて!』


 リルの頭を撫でた後、藍大は他の参加者達と共にドローンが撮影する映像が映し出されたスクリーンに視線を向けた。


 そのスクリーンに映る沙耶と従魔達は闘技場ダンジョンの中に足を踏み入れた。


 闘技場ダンジョン1階で沙耶達を待ち受けていたのは和洋中が入り混じった墓場だった。


 その墓場の正体とはグレイヴマスターであり、早く倒さないとMPが尽きるまでどんどんアンデッド型モンスターを召喚し続ける。


 ボスラッシュタイムアタックにおいて、できることなら相手にしたくないモンスターだと言えよう。


「グレイヴマスターじゃん。このチョイスはエグイなぁ」


 マルオがスクリーンを見て一目で出て来たモンスターの正体を見抜いた。


 死霊術士のマルオは雌のアンデッド型モンスターを集めている訳だが、決してそういったアンデッド型モンスターに詳しい訳ではない。


 どのようなアンデッド型モンスターは強いか調べる過程でグレイヴマスターの存在を知ったようだ。


『お墓ってことはアンデッドね! 出番よアリトゥス!』


 画面の向こうにいる沙耶はグレイヴマスターについて正確にはわかっていなかったが、墓を見て敵と相性の良い従魔の名前を呼んだ。


 アリトゥスはリザードマンビショップであり、アンデッド型モンスターによく効く効果のアビリティを使える。


か~みよ~♪ 神よか~みよ~♪』


『ピギャァァァ!?』


 アリトゥスが歌いながら発動したのは<滅屍乱打アンデッドキラッシュ>というアビリティだ。


 アンデッド特攻のある光属性のラッシュであり、アリトゥスが歌っているのはオリジナルの賛美歌だ。


 適当に歌っているように思えるかもしれないが、アリトゥス的には大真面目なので決して馬鹿にしてはいけない。


 以前、沙耶がアリトゥスを連れて探索したダンジョンでアリトゥスの歌を馬鹿にしたレイスがいたのだが、これ以上ないぐらいボコボコにされて昇天した。


 アリトゥスの<滅屍乱打アンデッドキラッシュ>でグレイヴマスターは次々に墓石を壊されてて地面は掘り起こされ、そのHPがガンガン削られていった。


「トッティ、とどめ刺しちゃって」


 トッティは無言で頷き<魔攻城砲マジックキャノン>を放った。


 これが決め手となってグレイヴマスターは力尽き、2階に続く階段がボス部屋内に現れた。


 倒したモンスターの死体は放っておくとダンジョンに吸収されてしまうので、沙耶達は急いでグレイヴマスターの死体を回収して先に進む。


 2階は中心と通路の足場以外が水場になっており、その水場には深淵に染まったクラーケンが待ち構えていた。


『イカリング、いかめし、アヒージョ』


「リル、その溢れんばかりの食欲を我慢しような。まだ昼まで時間があるんだから」


「クゥ~ン・・・」


 昼食がまだ先だと知ってリルがしょんぼりしていると、真奈が目を輝かせて話しかける。


「リル君、私がアビスクラーケンを倒したら烏賊パーティーだよ!」


『結構です。その対価としてモフられたくないのでお断りします』


「そんなぁ・・・」


 リルがバッサリと断ると真奈がしょんぼりした。


 その隣でガルフが藍大とリルに向かってぺこりと頭を下げる。


 今日も自分の主がフリーダムなのでガルフは苦労しているようだ。


 藍大達がそんなやり取りをしている間に沙耶はトッティとアリトゥスだけでなく、虹色の体表の蛇型モンスターを召喚してアビスクラーケンと戦っていた。


 これはユルングというモンスターであり、伊邪那美がボスラッシュタイムアタックでフロアボス候補として挙げたモンスターだ。


 余談だが、1週間前の打ち合わせの時にブラド達は参加者がテイムしていない従魔をフロアボスにする予定だったのだが、沙耶があまりにも目立たないせいで伊邪那美は沙耶がユルングをテイムしているという事実を見落としていた。


 沙耶はユルングにルーグルと名付けており、ルーグルは画面の向こう側で<紫雷吐息サンダーブレス>を放ってアビスクラーケンに大ダメージを与えていた。


 そこにトッティとアリトゥスが畳みかけるが、アビスクラーケンには<自動再生オートリジェネ>と<全激減デシメーションオール>、<痛魔変換ペインイズマジック>が揃っているからHPの回復量が多くてなかなか削り切れずにいる。


 結局、沙耶は水辺での戦闘に向かない従魔達も召喚して約30分かけてアビスクラーケンを倒した。


 グレイヴマスターの討伐から戦利品回収を10分で済ませたのだが、アビスクラーケンを倒して戦利品回収が終わった頃には大会議室のストップウォッチが40分を経過した。


 3階でラストバトルな訳だが、沙耶達を待ち構えていたフロアボスは剣のように鋭い見た目の鰯の軍隊だった。


 しかも、水中に隠れていたのではなく、空中で密集して巨大な剣を模った状態で待機していた。


『薙ぎ払えぇぇぇ!』


 数で勝負するサーディンソードアーミーに対し、沙耶は召喚できる従魔の総攻撃で3戦目を開始した。


 それぞれの鰯はせいぜいLv60ぐらいなのだが、それらが密集して息ぴったりに動くことでその脅威度を跳ね上げる。


 外側の個体のHPが危険域に達すると、内側と外側の個体が入れ替わって内側でダメージを負った個体が<自動再生オートリジェネ>で回復する。


 サーディンソードアーミーも時間稼ぎが得意なモンスターであり、沙耶達がボスラッシュにかけた時間は1時間9分52秒だった。


 降参することなく全てのボスを倒せたことに安堵した反面、3戦目のために戦力の温存をするとか考えずに2戦目の早い段階から総攻撃を仕掛けるべきだったと沙耶は後悔した。

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