後日譚最終章 大家さん、ボスラッシュイベントを運営する

第927話 お祭り騒ぎにワイバーンは欠かせないでござる

 魔神軍テイマー合宿から1か月が経って6月になった。


 その間にゲンが神化の杯を使って”守亀神しゅきじん”になったけれど、神になったところでゲンの生活スタイルは変わらない。


 藍大がダンジョン探索する時や外出する時を除き、三食昼寝付きの自宅警備員としての業務に従事している。


 元々”怠惰の皇帝”であるゲンだから、いざという時はこれで良いのだ。


 むしろ、勤勉なゲンなんて見た日には何か良からぬことが起きるのではと逢魔家が警戒するぐらいである。


 それはそれとして、来週に控えるボスラッシュタイムアタックの話をしよう。


 藍大のパーティーの踏破タイムが基準とされるボスラッシュをシャングリラリゾートの闘技場ダンジョンで行う。


 参加を表明しているのは以下のテイマー系冒険者だ。


 ”迷宮の狩り人”の丸山武臣マルオ


 ”近衛兵団”の神田睦美。


 ”レッドスター”の赤星真奈モフ神


 ”ブルースカイ”の青空理人。


 ”グリーンバレー”の菊田結衣。


 ”ホワイトスノウ”の有馬白雪。


 ”ブラックリバー”の黒川重治。


 ”雑食道”の伊藤狩人雑食神


 DMU探索班の等々力沙耶。


 今回はクラン対抗戦ということで、1つのクランから1人(柱)のみ参加できることにした。


 厳密に言えばDMU探索班はクランではないけれど、目立てるチャンスが欲しいと渇望する沙耶のために他の参加者達も細かいことは何も言わない。


 おそらく、どんな結果になっても沙耶が目立てるとは思っていないからだろう。


 参加者についてはさておき、召喚されるモンスターの選定はブラドとモルガナ、伊邪那美が打ち合わせを重ねて決めることになった。


 ブラドもやるからには簡単に踏破されたくないので、踏破できても参加者達が苦戦するようにモンスターを選ぶつもりだ。


 どんなモンスターを召喚するかは藍大にも秘密である。


「では、今日も打ち合わせを始めるのだ。よろしく頼むのだ」


「よろしくでござる」


「よろしくなのじゃ」


 ブラド達の打ち合わせはシャングリラリゾートの中心部にあるホテルの小会議室を貸し切って行われる。


 会議の間は誰も入ってはいけないことになっており、伊邪那美が結界を展開しているから透視や盗聴の恐れもない。


「まずはおさらいなのだ。主君達が挑むボスラッシュは3回戦であり、そのボスは吾輩達が選定したモンスターを参加者が入った時点でランダム召喚されるのである。ここまでは良いか?」


「異議なしでござる」


「妾も賛成じゃ」


 この形式に落ち着いたのはブラドとモルガナ、伊邪那美が配置する3体のモンスターを決めきれなかったのでこうなった。


 どうしても3体選ぶだけでは参加者間で得意不得意の差が出てしまい、その調整が難しかった。


 それゆえ、ブラド達が多めに選定したモンスターの中からランダムでフロアボスが決まる形式になった。


「問題はここからである。どのモンスターをフロアボスにするか話し合うのだ」


「拙者達の考えでは食べられるモンスターを優先してしまうでござる」


「仕方なかろう。妾達は食いしん坊なんじゃから。とりあえず、美味しく食べられるモンスターが5体、食べられないモンスター3体、モフモフ枠と雑食枠が1体ずつの10体という大枠が決まっただけ前回の打ち合わせは進展があったと見て良いじゃろう」


 前回の打ち合わせでは、ランダムで召喚されるモンスターの枠を決めることで時間いっぱいとなってしまった。


 これは食べられるモンスターと食べられないモンスターの割合を決めるのに時間がかかったからだ。


 食いしん坊ズとしては打ち上げで倒したモンスターの食材を使いたいから、10体全て食べられるモンスターにしようと考えていた。


 しかし、それではフロアボスの選定に偏りが出そうだったし、モフ神と雑食神からのリクエストだけ応じるのもいかがなものかと悩んで割合を見直した。


 その結果、美味しく食べられるモンスターは全体の半分にして、残り半分を食べられないモンスターとモフモフ枠、雑食枠にしたのだ。


「美味しく食べられるモンスターの議論に時間を使いたいから、先にそれ以外のモンスターの選定をするのだ。吾輩、食べられないモンスターはスフィンクスフレームとグレイヴマスター、サーディンソードアーミーで良いと思うのである」


「ブラド先輩、チョイスがいやらしいでござるな。拙者に異論はござらん」


「妾もないのじゃ。いずれも良い感じに時間のかかりそうなモンスターじゃからのう」


 モルガナと伊邪那美はブラドのチョイスに賛成した。


 タイムアタック要素があるボスラッシュならば、少しでも時間が稼げそうなモンスターを配置するのは当然のことだ。


 その点を考慮できているならモルガナも伊邪那美も異論はなかった。


「次はモフモフであるな。モフ神がテイムしたことのないモフモフという難題であるが、その点はモルガナに調べさせたはずなのだ。候補を見つけたであるか?」


「調べる過程でモフ神が狂ったコレクターだと思い知らされたでござるが見つけたでござる。その候補とはカンフュールでござる」


 カンフュールとは牡鹿の体をベースとして首から上がモフモフな一角獣であり、後ろ脚には水掻きがあるモンスターだ。


 陸上を駆けるだけでなく、泳ぐこともできるそのモンスターは水陸で角を用いた突進を得意とする。


「少しでもモフモフ要素があればよかろう。モルガナ、調査ご苦労だったのだ」


「うむ。モフ神がテイムしたことのないモフモフなんてかなりの難問じゃ。よく頑張ったのじゃ」


 ブラドと伊邪那美はモルガナの働きを労い、カンフュールをモフモフ枠としてカウントした。


「雑食枠であるが、吾輩がチョイスしたモンスターはクロコッタなのだ」


 クロコッタの外見はアナグマのような頭と獅子の体を持ち、サイズは驢馬くらいで足には二つに割れた蹄がある肉食獣だ。


 こちらもギリギリだがモフモフ枠に入るあたり、モルガナがモフモフ枠を探せなかった時にブラドが補欠として提案するつもりだったのだろう。


「またマイナーなモンスターが出て来たでござるな。一応食べられるから、雑食神も満足するでござろう」


「なんとなく癖のありそうな味じゃろうて、雑食神がランダムにもかかわらず引き当てる予感しかしないのじゃ」


 雑食枠もサクサクと決まった。


 ここからが食いしん坊ズにとっての本番である。


「さて、今日の本題に入るのだ。美味しく食べられるモンスターについて、各々の意見を聞くのだ。事前にピックアップした5体を順番に発表するのである。吾輩はレインボーマンドレイクとマーブルタラスク、ウロボロス、ヒュドラトレント、ズメイなのだ」


「拙者はウロボロスとワイバイコーン、アビスクラーケン、ピルウ、パンプキングでござる」


「妾からはとズメイとファントムマッシュ、アリコーン、ユルング、ウロボロスを推薦するのじゃ」


 ブラド達がそれぞれ発表した中で被るモンスターがいた。


「ふむ。2票以上集まったウロボロスとズメイは決まりで良かろう。残る3枠だが、どうしても入れたいモンスターはいるであるか?」


「拙者、ワイバイコーンは要れてほしいでござる」


「理由を聞かせてもらうのだ」


「お祭り騒ぎにワイバーンは欠かせないでござる。それでも、ただのワイバーンじゃ秒でお肉になってしまうゆえ、ワイバーン派生種のワイバイコーンを推すでござるよ」


 モルガナの言い分を聞いてブラドも伊邪那美も確かにと頷いた。


 ワイバーンという存在は今となっては本当にただの肉である。


 それでも冒険者達の登竜門であり、逢魔家でも派生種も含めてワイバーンは食卓で活躍してくれたモンスターだ。


 だとしたら、大きなイベントの後で食べることになるモンスター食材にワイバーンがないのは残念に思える。


 そのように結論を出してワイバイコーンは食べられるモンスター枠の3番目に選抜された。


「吾輩、4番目と5番目には変わり種を入れたいでござる。ぶっちゃけ、肉ばかりでは飽きると思うのだ」


「拙者も同意見でござる。アビスクラーケンとパンプキングを入れたのはそう思ってのことでござるよ」


「妾も同じじゃファントムマッシュを入れたのはそれがあってのことじゃ」


「であるならば、海鮮枠でアビスクラーケンを選び、野菜・果物枠でレインボーマンドレイク、ヒュドラトレント、パンプキング、ファントムマッシュから決めるのだ」


 4番目の枠をアビスクラーケンに決めた後、5番目の枠についてビジュアルや継戦能力、美味しさの観点からヒュドラトレントが選定された。


 10体の枠がようやく決まり、ブラド達はすっかり成し遂げた気分で打ち合わせを終えた。

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