第921話 従魔を雌だけにしたって良いじゃないか。男の子なんだもの

 昼食と休憩を済ませた後、魔神軍のテイマー合宿は大会議室で再開した。


「午後は先輩テイマーがどんな風に従魔を育ててるのか発表する時間とする。午前中に各人の従魔が戦ってるところを見て学んだと思うが、どのようにしてその強さや容姿を手に入れたのか知ってお互いの今後の助けになるようにしたい」


 藍大が午後のプログラムについて概要を伝えれば、参加者達はわかったという表情で頷いた。


「さて、最初に発表するのはマルオだ」


「はい! じゃあ、早速発表します。スクリーンをご覧下さい」


 マルオはノートパソコンを操作して1枚の写真をスクリーンに映し出した。


 映し出されたのはマルオと彼の全ての従魔の写真だ。


 ベルヴァンプの丸山ローラとリビングガードナーのテトラ、フォールンスパルのドーラ、ビフロンスの丸山ポーラ、モルモーのメジェラの5体である。


 この5体からマルオは従魔を追加しない。


 厳密には一時的に雑魚モブアンデッド軍団を使役して外国からの依頼でダンジョンを潰したことがあるのだが、用が済んだら死霊術士の能力で死体に戻したのでレギュラーメンバーだけがマルオの傍にいる。


 種族名と名前を説明した後、マルオは育成法について説明する。


「俺の従魔は全員Lv100です。少数精鋭を目的として従魔の数を絞ってます」


「嘘つき。女型のアンデッド型モンスターがなかなかいないから少ないだけの癖に」


 マルオの隣で静音がグサッとマルオの痛い所を突いた。


 (静音にバレてたのか。いや、マルオなら堂々と従魔の数が少ない理由を宣言しててもおかしくないな)


 静音の発言に藍大は苦笑した。


 その発言を受けてマルオは開き直った。


「従魔を雌だけにしたって良いじゃないか。男の子なんだもの」


「マルオ。って喧しいわ!」


 マルオが悟りを開いた表情で言ったのに対し、静音がキャラとは違うノリツッコミを見せた。


「静音、そうは言うけど楽しく従魔を育てたいじゃないか。俺は従魔のレギュラーメンバーを雌限定にしてるけど、その代わりにレベル上げや育成を面倒だと思ったことなんて一度もないぞ。愛情を込めて育てられるなら、拘れるだけ拘って良いじゃないか」


 後ろめたいところなんて何一つないとマルオが胸を張って言えば、隣で話を聞いていたローラが口を開く。


「マスターは確かに女好き。でも、誰かれ構わず手を出したりしない。ちゃんと愛情をもって育ててくれてる。雌のアンデッド型モンスターなら問答無用でテイムするような屑野郎じゃない。そこは私が保証する」


「ローラさんが良いなら私はこれ以上何も言いません。中断してしまって失礼しました」


 静音は全体に向けて頭を下げた。


 その表情は納得したというよりも説得されたという感じだったため、藍大がフォローする。


「テイマー系冒険者は俺みたいな従魔士じゃない限り、テイムできるモンスターのジャンルが決まってる。その中で戦力のバランスを考えつつ、自分が仲間にしたいと思ったモンスターだけ従魔にできるのがテイマー系冒険者の楽しみなんだ。だから、マルオをただの女好きだと思わないであげてほしい」


「流石逢魔さん! そうなんだよ静音! テイマー系冒険者はテイムする従魔の選定に趣味を優先する生き物なんだ!」


「兄さんは黙ってて」


「はい」


 (マルオ、フォローしたんだからそこはおとなしくしとけよ)


 余計なことを言うから妹にジト目を向けられるんだぞと藍大はマルオに心の中で溜息をついた。


 マルオがこれ以上発表を続けるのは難しいと判断し、藍大はマルオの育成法を質問形式で引き出すことにした。


「マルオ、ダンジョンにはどれぐらいの頻度で行ってる?」


「ほぼ毎日ですね。倒したモンスターがその日の飯になり、素材はクランで使われて収入源になりますので」


「ポーラが管理するダンジョンはどれぐらいの頻度で改築あるいは増築されてる?」


「1週間に1回は管理してるどこかしらのダンジョンの階層が増えて、俺達がそのテスターをしてますね」


 このように藍大が質問してマルオが答えていくと、静音は自分の兄がちゃんと冒険者として仕事をしていたのかと評価を上方修正した。


 マルオのノリが軽いせいで妹からの評価を下げているのだから、その点は自分の見せ方を改善すべきだろう。


 藍大はこの流れのまま話を続けるべく参加者達に話を振る。


「俺だけ質問するのは勿体ないから、マルオに質問がある人は挙手して質問してくれ」


 藍大に促されたことによって智仁が手を挙げる。


「智仁さん、質問をどうぞ」


「稼ぎになるとはいえ、毎日ダンジョンに行くのはしんどくないのかい?」


「全然しんどくないです。ローラ達は誰が一番強くなれるか競ってるんですが、それを見てるのも楽しいですよ」


「なるほど。従魔の成長が目に見えてわかるなら毎日行っても飽きないね」


「その通りです。ただ、俺が戦おうとするとその前にローラ達が倒しちゃうのでちょっぴり悲しいですけどね」


 マルオが自分にも戦わせてくれて良いんだぞと言外にアピールすると、ローラはとんでもないと首を横に振る。


「マスターを危険な目に遭わせないのが従魔の役目。マスターには安全な所で私達の成長を見守ってほしい」


「『わかる』」


 ローラの言い分を聞いてサクラとリルが頷いた。


 藍大のパーティーも藍大が戦いに直接関与する機会が滅多にない。


 これはサクラ達従魔と舞が藍大を危険な目に遭わせたくないからだ。


 その後も質疑応答が行われ、それから睦美の発表に移った。


「私も現在テイムしてる従魔の紹介から始めます」


 スクリーンに映された睦美の従魔は1体増えて4体になっていた。


 ファガンのメリエルとフォルマトナイトのルシウス、リュージュのディガンマの3体は世間からの認知度が高い。


 残る1体はジャンクパラディンのアトゥだ。


 元々は無機型モンスターのパーツを取り込んで強くなるジャンクスカウトと言う種族だったが、二度の進化を経てジャンクパラディンになった。


 藍大が紹介してもらった時に確認したアトゥのステータスは以下の通りである。



-----------------------------------------

名前:アトゥ 種族:ジャンクパラディン

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:3,000/3,000

STR:3,500

VIT:3,500

DEX:3,500

AGI:3,000

INT:3,500

LUK:3,500

-----------------------------------------

称号:睦美の従魔

   ダンジョンの天敵

   到達者

アビリティ:<武器精通ウエポンマスタリー><魔力砲マジックキャノン><絶対注目アテンションプリーズ

      <吸収突撃ドレインブリッツ><重力支配グラビティイズマイン><獣型形態ビーストフォーム

      <全激減デシメーションオール><自動修復オートリペア

装備:キリングブレード

   アーマーシールド

備考:なし

-----------------------------------------



 アトゥの特筆すべきアビリティは<獣型形態ビーストフォーム>だ。


 デフォルトの見た目は人間大の武装ロボットなのだが、<獣型形態ビーストフォーム>を使うことで獅子型ロボットの見た目に変形する。


 その際にはアーマーシールドも変形させて鎧に変え、電動鋸に似たキリングブレードを口に咥える。


 人型の時も獅子型の時も翼がなくて空を飛べないが、<重力支配グラビティイズマイン>のおかげでアトゥは滞空時間をある程度操作して空中戦もできる陸戦型ロボットになった。


「私の従魔は融合の都合やパーティーのバランスから4体のみです。いずれも高火力のモンスターばかりなので、1対多数を得意とします。私もほぼ毎日ダンジョンに行ってますね。その方がロボットの戦闘シーンを撮影できますので」


「ロボットの戦闘シーン、良いよね」


「良いですよね」


 睦美の言い分を聞いて人形士の智仁と睦月がうんうんと頷いた。


 そのタイミングで涼子が手を挙げる。


「質問良いですか?」


「涼子さん、お好きに訊いて下さい」


「従魔を装備して戦うって本当ですか?」


「本当ですよ。メリエルを装備して戦う時もあります。気分次第でディガンマに搭乗して戦いますね」


 睦美がとても良い笑顔で頷く一方で智仁と睦月が目を輝かせる。


「俺も早くその次元に到達したい」


「俺も早くモ〇ルアーマーに乗りたいです」


 (父さんと睦月の気持ちはわかるけど、危険な真似はさせないように釘を刺しておこう)


 藍大もロボットに魅入られた者なので、智仁と睦月の気持ちはよくわかる。


 しかし、従魔の力を借りて自分の身で戦うにはそれなりの経験を要するので、智仁と睦月がやりたいことを優先して怪我を負うことのないように注意した。


 藍大が2人に注意するのを聞いて涼子はホッとしたのか質問を終えた。


 この後、優月や咲夜からもロボット好きな男の子っぽい質問が飛び出たため、藍大が血は争えないんだなと微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る