第917話 僕も早くリルさんみたいに強くなりたい

 1週間後の土曜日である5月8日、魔神軍に所属するテイマー系冒険者がシャングリラリゾートの中心にあるホテルの大会議室に集まった。


 参加者達の従魔も会議室に入る大きさならば召喚して良いことになっており、この場にはたくさんの従魔も集まっている。


「さて、時間になったことだしテイマー合宿を始める。今日と明日の2日間を少しでも有意義に過ごしてくれるよう願ってる」


 藍大はサクラを筆頭とした従魔達と共に講師ポジションである。


 マルオと睦美、泰造は羽化の丸薬で覚醒した者達に比べれば先輩だが、まだまだ藍大に学ぶことは多いので生徒ポジションにいる。


 誰もが真剣に話を聞いているから、藍大はそのまま最初のプログラムに移る。


「最初に行うのはテイマー学の基礎、パーティー構成だ」


 藍大がそう言うとスクリーンにパーティー構成というタイトルが映し出された。


 テイマー系冒険者は自らが従魔を増やせるため、冒険者同士でパーティーを組むことが少ない。


 それは従魔の数が増えれば増える程少なくなる。


 味方が多くて楽ができるのは間違いないが、経験値がパーティーメンバー全員で等分されると成長速度が遅くなってしまう。


 加えて言うならば、魔石がモンスターを成長させるので魔石による儲けがパーティーから消える。


 得られる経験値も利益も減ってしまうと、どうしてもテイマー系以外の冒険者はテイマー系冒険者とパーティーを組まなくなる。


 いつも藍大と組む舞やマルオとパーティーを組む花梨は例外だと言えよう。


 日本のテイマー系冒険者はトップ10のクランかDMUに在籍している。


 大きな組織に属しているなら話は変わり、組織の目的を果たすためにテイマー系冒険者とそれ以外の冒険者が組むこともある。


 日本はテイマー系冒険者の数が多いからそういうこともあり得るが、外国諸国ではテイマー系冒険者とその従魔は1パーティー扱いされ、テイマー系以外の冒険者と組む機会はほとんどない。


 貴重な戦力に舐めプレイさせる余力はないのだ。


 それはさておき、テイマー系冒険者はダンジョン探索にテイムした全ての従魔を連れて行く訳ではない。


 これから藍大が話すのはダンジョンに探索するにあたって必要な役割等、テイマー系冒険者にとって基礎中の基礎である。


 後発組を思ってのプログラムと言えよう。


「パーティーの役割には大きく分けて攻撃、守備、回復、支援と役割を分けられる。このバランスを考えてパーティー編成をするのが冒険者の基本だ」


「お父さん、しつもん!」


 藍大の話を聞いて手を挙げたのは優月だった。


「なんだい優月?」


「たくさんやくわりがあるんだよね? なんでお父さんたちはいつも少数でたんさくするの?」


「良い質問だ。普通のモンスターは大抵どれか1つの役割を担う。ただし、父さんの従魔達は一気に何役もこなすから少数で済むんだよ」


 藍大が優月を褒めた後の説明を受け、サクラ達は揃ってドヤ顔になった。


 サクラは攻撃と守備、回復、支援の全てを担える。


 リルとゲンは攻撃と守備、支援を担える。


 仲良しトリオは攻撃と回復、支援を担える。


 複数の役割を担えるのはサクラ達のアビリティ構成のバランスが良いからだ。


 それを説明したことで優月は納得した。


「そっか。サクラママやリルたちがすごいんだね!」


「「「『『ドヤァ』』」」」


 もっと褒めても良いんだぞとサクラ達のドヤ顔が留まることを知らない。


 サクラ達がすごいと言った優月だが、優月の従魔であるユノとナギも複数の役割を担っていたりする。


 ユノは攻撃と守備、回復を担い、ナギは攻撃と守備を担う。


 次にテイムするなら支援ができるドラゴン型モンスターが良いだろう。


「あれ、俺って支援系従魔いなくね?」


「あれ、私って回復系従魔がいませんでしたね」


 それぞれがマルオと睦美のリアクションである。


 藍大はバランスを考えてと言ったが、テイマー系冒険者でも全種族をテイムできる従魔士とそれ以外ではできることに差が出る。


 アンデッド型モンスターは攻撃と魔法がメインであり、回復はアンデッドならではの回復ができる程度で汎用性はない。


 支援の役割を果たせるアンデッド型モンスターもいない訳ではないだろうが、数が少ない上にマルオの従魔達は攻撃と守備ばかりだ。


 守備も攻撃寄りで攻撃は最大の防御という発想である。


 無機型モンスターの場合、回復は自己修復しかできないから、どうしてもパーティー編成が攻撃と守備、支援だけになってしまう。


 自分の職業技能ジョブスキルでどの役割のモンスターをテイムできるのか、あるいは育てられるのかを考えなければバランスの良いパーティー編成が難しいことを参加者達は理解した。


 バランスが大事なんだとわかったものの、ふと気づいたことがあって泰造が手を挙げる。


「泰造、何か気付いたかな?」


「はい。基本的にパーティーのバランスが大事なのはわかります。現に自分のパーティーもバランス重視です。ただし、火力特化の脳筋編成でもどうにかなることが多いのではないでしょうか?」


「その通り。ただし、それはあくまで基礎を理解した上で何かを捨てる代わりに長所にその分を上乗せして初めて成立する。基礎なくして応用はない。良いね?」


「おっしゃる通りですね。いきなり応用するなんてことはできません。ありがとうございました」


 自分の考えはバランスの良いパーティーの応用だと理解し、泰造は質問を終えた。


 藍大は攻撃と守備、回復、支援の役割について簡単に説明した後、参加者同士でペアを組ませた。


 ペアの組み合わせは藍大と涼子、マルオと睦月、睦美と静音、泰造と智仁、優月と咲夜である。


 ペアで誰かがハブられるというトラウマは生じない優しい世界だった。


 組んだペアで何をするのかと言えば、先輩テイマーが後輩テイマーのパーティー構成相談を受けるのだ。


 丸山兄妹と神田姉弟を分けたのは違う人の意見を聞く機会を設けるためで、泰造を智仁のペアにしたのは泰造が涼子にうっかりデレてしまおうものならアイボが嫉妬するからに決まっている。


 藍大は自分の母親にデレる泰造も見たくなかったし、アイボに折檻される泰造も見たくなかったので智仁と組ませた。


 優月を咲夜と組ませたのは兄として咲夜を導く機会を与えるためだ。


 オブザーバーとしてブラドとモルガナが見守っているので、変なことにはならないだろう。


「藍大ってば私とペアを組みたかったの? いくつになっても甘えん坊ね」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる涼子に藍大はイラっとしたがリルを撫でて気持ちを落ち着かせた。


 身内ばかりとはいえ、藍大が涼子をぞんざいに扱うところを見せるのは好ましくないからだ。


「消去法だよ、消去法。参加者の相性やその従魔の感情を考慮した結果、母さんの相談に俺が乗ることになったんだ」


 藍大がジト目でそう言えば、涼子も藍大の意図を察して泣き真似をする。


「うぅ、可愛かった頃の藍大はどこに行ったのかしら」


「その話詳しく」


「サクラ、黙ってて。頼むから」


 藍大の可愛いエピソードが聞けるのではとサクラが期待して話に加わろうとしたので、藍大は身を乗り出すサクラを落ち着かせた。


「それで、母さんはパーティー編成で困ってることある?」


「う~ん、困ってると言えば困ってるかな。今はソルをじっくり育ててるから良いけど、次の従魔を何にすれば良いのか悩んで決まらないわね」


 藍大は改めて涼子の隣にいるソルのステータスをチェックする。



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名前:ソル 種族:スコル

性別:雄 Lv:50

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HP:1,200/1,200

MP:1,500/1,500

STR:1,200

VIT:1,200

DEX:1,200

AGI:1,500

INT:1,200

LUK:1,200

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称号:涼子の従魔

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<火炎乱射フレイムガトリング><火炎爪フレイムネイル><光弾雨ライトレイン

      <衝撃咆哮インパクトロア><陽炎分身ヘイズオルタ><音速移動ソニックムーブ

装備:なし

備考:僕も早くリルさんみたいに強くなりたい

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 (ソルはリルに憧れてるのか。頑張れよ)


 藍大はソルの備考欄を見て微笑んだ。


 藍大の膝の上にいるリルもソルのステータスの備考欄を見たのか気分を良くしていた。


「ソルは現状だと攻撃と回避盾だ。回復の役割は難しいだろうけど、支援の役割は今後会得するアビリティ次第で担えるはず。回復役を担うモンスターをテイムしたらどう?」


「例えば何がいるかな?」


「母さんが知ってるところで言うと、コスモフの従魔のマロンとかだな。今はテイムした時から進化してアークプリースリスって種族だったはず」


「マロンちゃんか~。確かに可愛いよね。うん、採用」


 涼子は即断即決した。


 可愛いし足りない回復役を任せられるならば拒む理由がないからだ。


 他のペアも次にテイムすべき従魔について相談を終えたらしく、ペアで話し合う時間は終わった。

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