第916話 これぐらい朝飯前って時間じゃないね。昼飯前だよ

 地下神域に移動した後、静音と睦月は藍大達に従魔をお披露目する。


「【召喚サモン:メディチ】」


「【召喚サモン:ゼロ】」


 主人に呼び出された従魔達が藍大の前に現れた。


 マンドラボアはいくつものマンドラゴラの根が組み合わさって蛇を模る植物型モンスターだ。


 メディチは人見知りなのか静音の後ろに隠れたが、とぐろを巻くと体が静音の横幅をはみ出るので隠れ切れない。


 ガンドポッドは両腕が銃になった球体のドローンと呼ぶべき無機型モンスターである。


 不思議な場所に召喚されてびっくりしたらしく、その場でくるっと回って安全の確認をしていた。


「メディチ、怯えなくても大丈夫。逢魔さん達は敵じゃないわ」


「キィ」


「ゼロ、逢魔さんはロボットの良さを理解できるお方だぞ」


 睦月の言葉を聞いてゼロはピロリンと音を出して応じた。


 メディチもゼロも自分の主人から目の前の藍大達が敵じゃないと聞いて安心した。


 どう考えても勝てるビジョンが見えない相手の前にいきなり召喚されれば、それらが敵じゃないと聞いて安心しないはずあるまい。


 そこにシャングリラダンジョン帰りの涼子と智仁が自分達の従魔を連れて来た。


「藍大~、その子達が新しく覚醒したテイマー系冒険者~?」


「はじめまして。蔦教士の丸山静音です。兄がいつもお世話になっております」


「はじめまして。人形士の神田睦月です。姉がいつもお世話になっております」


 睦月が人形士だと聞いて智仁が反応した。


 そんな智仁を見て睦月は自分の額から閃光を発したような気がした。


 結果として、智仁と睦月は無言で握手した。


「ニュータイプ同士、通じるものがあったな。俺は逢魔智仁。わかってると思うが人形士だ」


「一目見た瞬間にわかりました。もしよろしければ、従魔を拝見させていただけませんか?」


「良いだろう。【召喚サモン:ジークルーネ】」


 智仁がそう口にした直後、木目模様の鋼で構成された戦乙女のロボットが現れた。


「素晴らしい! やはり時代はモ〇ルスーツですよね!」


 睦月ではなく睦美がジークルーネを見てハイテンションになった。


 ジークルーネは進化してマグネヴァルキリーからダマスカスヴァルキリーに種族が変わった。


 人型のロボットは睦美の趣味であり、自分の従魔にはダマスカスヴァルキリーがいないので様々な角度から観察していた。


 その一方、同志になれると思った智仁がモ〇ルスーツ派だったと思い、静かにショックを受けた。


 智仁はそんな睦月の反応に気づいてジークルーネに指示を出す。


「ジークルーネ、変形して」


 ジークルーネの目が光り、飛翔したと思いきや空中でその姿を流線的な見た目の上下左右に翼の付属した機体へと変えた。


「エ〇ザス!? エ〇ザスじゃないですか! 流石同志!」


「そうだろう、そうだろう」


 睦月がモ〇ルアーマーの名前を口にして目を輝かせた。


 このリアクションには智仁も満足したのかニコニコしている。


 (逢魔家だとこの変形の良さがわかる人が限られるからな。父さんがとても楽しそうだ)


 逢魔家の男子はロボットや変形に興味を持っているが、逢魔家は女性の方が多いので良いリアクションが期待できない。


 智仁としてはもっとジークルーネのすごさをもっと他の人にも理解してほしいけれど、デウス=エクス=マキナが生き返らせた条件としてシャングリラやシャングリラリゾートの敷地から出ないことと定めており、それには自分が死んだと知っている者の前に姿を現さないことが含まれている。


 魔神軍所属者は秘密保持の契約により智仁と涼子が生き返ったことを知っているが、それでも智仁は1人でも多くの人に自分のジークルーネを知ってほしいと思っている。


 だからこそ、新たに睦月がジークルーネを見て目を輝かせたことを喜んでいる。


 ジークルーネも自分を見て目を輝かせてくれた者がいると知り、どうぞ写真を撮って下さいと言わんばかりにポーズを次々に決めていく。


 変形も交えてアピールするものだから、神田姉弟は真剣な顔で動画撮影を始めている。


「もう嫌になっちゃうわね。藍大、ロボット好きも程々にしないとサクラちゃんとリル君が寂しそうにしてるわ」


「あっ、ごめん」


「主は本当に仕方ないんだから」


『ご主人、放っておかれると寂しいんだよ?』


「ごめんな」


 再びごめんと謝った藍大はサクラとリルを順番にハグした。


 舞もその後ろにちゃっかり並んでおり、藍大とハグしていることを気にしてはいけない。


 マルオも男子ゆえにジークルーネのパフォーマンスに目を奪われており、静音が暇そうにしていたので涼子は指笛を吹いた。


 その直後に薄いオレンジ色をベースに額の太陽のマークが赤い狼が涼子の前に走って来た。


「ウォン!」


 ソルは涼子の前で集合したよと言う代わりに吠えた。


「ソルはお利口さんね~」


「ウォン♪」


「可愛いですね」


「グルゥ」


 静音に悪気はなかったのだが、ソルは自分が可愛いと言われて可愛いって言うなと言わんばかりに唸った。


 それを見てリルがソルに近寄る。


『ソル、静音は君のことを褒めてるんだ。普段は可愛いって言われても戦闘の時にカッコ良い姿を見せれば良いと思わない?』


「・・・ワォン」


 リルに説得されたソルは少し考えてからなるほどと頷いた。


 静音はソルに悪いことをしたと思って謝る。


「ソルさん、ごめんなさい。男の子に可愛いは褒め言葉になりませんでしたね」


「ウォン」


『できれば次から可愛いじゃなくてカッコ良いって言ってねだってさ』


「わかりました。リルさん、通訳してくれてありがとうございます」


 静音はリルにソルの気持ちを通訳してもらったことを感謝した。


『これぐらい朝飯前って時間じゃないね。昼飯前だよ』


 (リルが昼食欲しいアピールを始めたな)


 自分をチラ見してそう告げたリルの姿に藍大はぼちぼち昼食の準備をした方が良いのかもと思い始めた。


 しかし、客がいるのに自分が料理を作るために席を外すのはどうなのかと考え、藍大は亜空間からとあるものを取り出した。


 それだけでリルは匂いを真っ先に嗅ぎ取り、藍大が瞬きしたその次の瞬間には藍大の正面に座っていた。


『ご主人、手に持ってるマフィンちょうだい』


「相変わらずの超反応だな」


『ワフン、僕がご主人の作った物に気づけないはずないからね』


「藍大、私もマフィンが欲しいな」


 リルだけではなく、舞もしっかりマフィンの存在を察知していたらしい。


 これぞ食いしん坊ズクオリティである。


「しょうがないな。おやつ食べたら昼食が少し遅くなっても我慢するんだぞ」


「『は~い』」


 舞とリルはとても良い笑顔で返事をした後、藍大からマフィンを貰って美味しそうに食べた。


 そのマフィンの匂いに釣られてソルは藍大の前に移動してからちょこんと座る。


「クゥ~ン」


 (これは可愛いって言われてもしょうがないんじゃないか?)


 ソルは雄だけれど、マフィンを欲しがる鳴き声もその表情も愛らしいものだった。


 これを見てカッコ良いと評価するのは難しいだろう。


 ソルは自分の従魔ではなく涼子の従魔なので、藍大は涼子にマフィンを上げても良いか視線で訊ねる。


「あげても良いよ。ソルは今日の探索でも頑張ってくれたからね。もうLv50まで育ったんだから」


「おぉ、順調に強くなってるじゃん。これは俺からのご褒美だぞ」


「クゥ~ン♪」


 マフィンを貰ったソルは感謝して藍大に頬ずりした。


 ソルも藍大の料理に胃袋をがっちり掴まれており、毎食藍大の作る料理を楽しみにしているのだ。


 藍大はペロリとマフィンを食べ終えたソルがLv50になっていることを確認した後、今は神田姉弟の従魔とコラボしてポーズを決めているジークルーネのレベルを確認した。


 こちらもLv50になっており、涼子と智仁は初めての従魔をのんびりではあるが着実に育てていることに感心した。


「折角だし後発組テイマー系冒険者の育成に手を貸そうかな」


「マジですか逢魔さん!?」


「本当ですか魔神様!?」


 藍大がぽつりと呟いた言葉を聞き逃さず、マルオと睦美が反応した。


「テイマーサミットの規模まではいかないけど、魔神軍のテイマー系冒険者を集めて何かやるのはありかなって」


「やりましょう!」


「ぜひお願いします!」


「即決だな。話が早くて助かるけど」


 思いついたまま口にした企画があっさり実現することになり、藍大はこの日の午後に魔神軍のテイマー系冒険者を集めた企画の内容を練った。

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