後日譚10章 大家さん、魔神軍のテイマーを集める

第915話 舞さんって本当に食べても太らないんですか?

 羽化の丸薬が提供され始めてから1か月強が経過して5月になった。


 日本のトップ10クランが協力したことにより、体況に問題のない未成年と65歳以上を除いて未覚醒者は一次覚醒を遂げた。


 結果として、戦闘職と生産職の一次覚醒の比率は3:7で生産者が多くなった。


 肝心の新たなテイマー系冒険者だが、現在確認されているのは2人だけである。


 これには掲示板が阿鼻叫喚と表現すべき状態になった。


 未覚醒者の誰しもがテイマー系の職業技能ジョブスキルになることを期待しており、羽化の丸薬を飲んでがっかりする者が後を絶たなかったようだ。


 ちなみに、テイマー系の職業技能ジョブスキルに覚醒した2人だが、マルオと睦美の親族だったのでシャングリラに挨拶に来たのだ。


 マルオは清楚な見た目の女の子に付き添っており、睦美は彼女と似た雰囲気を持つ癖毛の男性に付き添っていた。


 藍大はリルを膝の上に乗せ、両隣を舞とサクラに挟まれた状態で4人と向かい合っている。


「逢魔さん、紹介します。俺の妹で丸山家の長女の静音しずねです」


「は、はじ、はじめまして。丸山です」


 緊張している静音は自己紹介で噛んでしまい、顔が真っ赤になった。


「静音さんね。了解。緊張しなくて良いよ。って言っても難しいかもしれないけど」


「・・・ありがとうございます。失礼しました。改めて名乗らせていただきます。丸山静音21歳。蔦教士です」


 藍大に声をかけられた静音は深呼吸してから自己紹介をやり直した。


 次は噛まずに言えたため、静音はホッとした表情になった。


「蔦教士か。戦闘以外でも役に立ってくれるモンスターをテイムできるから、どのクランからもスカウトされそうだな。大学4年生?」


「はい。今年が就活だったんですが、羽化の丸薬を飲んで蔦教士に覚醒したので人生設計を大きく修正しました」


「そうなんだ。元々はどんな業界を狙ってたの?」


「化粧品メーカーです。でも、兄が頑張ってるように冒険者の方が稼げるみたいですから私も冒険者になります。いっぱい稼いで弟と妹の学費を少しだけでも援助するんです」


 (マルオに似て家族思いなんだな)


 藍大が静音の話を聞いてマルオには彼に似て立派な妹がいるじゃないかと感心した。


 ところが、マルオは静音の話を聞いて驚いていた。


「えっ、俺が父さんにもっと家にお金を送ろうかって聞いたら大丈夫って言われたんだけど」


「見栄を張ってるに決まってるでしょ? 私達だってバイトしてるけど、国公立の大学に入れる程頭良くないからお金がかかるわ。だから、兄さんだけに任せないで私も稼ぐの」


「家に戻ったら親父に俺から連絡するわ。・・・あっ、身内のことですみません」


 マルオは静音と丸山家の経済状況について2人だけで喋っていたことに気づき、藍大達に聞き苦しい話を聞かせてしまったと謝った。


「俺が丸山家の話に介入すると面倒なことになるだろうから口は出さないけど、マルオはしっかり稼いでるんだから親御さんとしっかり話すんだな」


「うっす。弟や妹に不自由させるのが一番駄目だと思うので、しっかり話しておきます」


 藍大という日本で最も有名な冒険者に口出しされれば、マルオの父は腹に何か抱えていたとしても委縮してしまうだろう。


 そうなっては後々丸山家の中でしこりが残ってしまうかもしれないので、藍大はマルオにどうにかするように言うだけに留めた。


 マルオも藍大に手を借りてしまうと大事になると思ったから、ちゃんと自分で対応すると宣言した。


 そんな中、藍大の膝上にいたリルが気になったことがあって訊ねる。


『丸山家はいっぱい食べるの?』


「リルさん、流石ですね。みんなよく食べるからぐんぐん成長してますよ。な、静音?」


「兄さんの馬鹿!」


「痛い・・・」


 マルオはあろうことか静音にいっぱい食べるだろうと話を振ったため、静音から頬にビンタされた。


 これにはサクラが溜息をついた。


「マルオ、女心を学びなさい。一般的な女性はいっぱい食べるでしょって人前で言われたくないの。舞や花梨は例外」


「むぅ。逢魔家では伊邪那美様や天姉もいっぱい食べるのに」


「舞、話がややこしくなるから黙ってようか」


「は~い」


 舞がサクラに例外扱いされて異議ありと言いたそうな表情をしていたが、藍大にまでにしておこうかと言われておとなしくなった。


 そのやり取りを聞いて静音は気になったことを質問してみた。


「舞さんって本当に食べても太らないんですか?」


「いくら食べても太らないよ。だから、好きなだけ藍大の料理を食べられるんだ~」


「羨ましいです」


「同感。舞は女の敵」


 静音が羨ましいと素直に口にすると、サクラは舞が理不尽の権化なんだと言った。


 藍大はこのまま話を脱線したままでは睦美が連れて来た男性の紹介ができないため、話を区切って自己紹介に話を戻す。


「脱線し過ぎて申し訳ない。神田さん、隣の方を紹介してくれ」


「わかりました。隣の癖毛は私の弟の睦月です。私がモ〇ルスーツ推しなのに対し、睦月はモ〇ルアーマー推しです」


「こんにちは。神田睦月かんだむつきと申します。羽化の丸薬で人形士になりました。姉が言った通り、私はモ〇ルアーマーが大好きです」


「モ〇ルアーマーか。そっちも良いよな。睦月さんは何が好き?」


 ロボット談義を持ちかけられれば、藍大もロボット好きなのでうっかりそれに乗って質問してしまう。


『サクラ、不味いよ。ご主人がロボット談義に乗っちゃった』


「リル、モフモフアピールが足りてない。主を現実に呼び戻して」


 リルとサクラでそんな会話をしている一方、睦月は藍大の質問にしっかり答える。


「メ〇ウスです。勿論ゼロの方です」


「ゼロは良いよなぁ。有線誘導式無人機っていう玄人向けの装備が堪らん」


「ですよね! 流石は魔神様! 貴方はわかってらっしゃる!」


 睦月は自分と同じ機体を好きな藍大に対して一気に心を開いた。


 それに睦美が待ったをかける。


「確かにゼロにはロボ好きを唸らせる魅力があります。ですが、私は変形できるモ〇ルスーツの方が良いと思います。セイバーガ〇ダムなんて良いじゃないですか」


「モウヤメルンダ!」


「煩い睦月。絞められたいの?」


「・・・黙ります」


「よろしい」


 (神田家は姉が弟の上にある訳か)


 睦美と睦月のやり取りを見て藍大はそう悟った。


 2人がおとなしくなった瞬間を狙ってリルが藍大に甘える。


「クゥ~ン」


「ん? あぁ、ごめんよ。うっかり話に聞き入ってた」


 リルが愛くるしく鳴いて藍大の意識を自分に引き戻せば、サクラもその流れに乗って藍大に甘えるように体重を預ける。


「主、私達というものがありながらロボットにうつつを抜かし過ぎ」


「ごめんな」


 リルとサクラは藍大に頭を撫でてもらったことでやっと安心できた。


 ロボット談義はそこまでにして、藍大は静音と睦月に訊ねる。


「静音さんと睦月さんはこれからそれぞれの兄弟がいるクランに加入するの?」


「逢魔さん、私のことは静音と呼び捨てにして下さい。さん付けなんて恐れ多いです」


「私のことも睦月と呼んで下さい。姉から聞いた限りでは同い年ですから」


「了解。それで、静音と睦月は”迷宮の狩り人”と”近衛兵団”に加入するのか?」


 静音と睦月が自分達を呼び捨てにしてほしいと言うので、藍大は2人の意思を尊重して再度質問する。


「そのつもりです。他のクランのスカウトが必死過ぎて怖いので、兄と同じクランに入ります。成美さんにも既に加入を認めていただきました」


「私は”近衛兵団”以外最初から入るつもりはありませんでした。クランハウスがロボ好きには堪らん仕様になってますので」


「あぁ、あれは確かにロボ好きなら必見だよね」


「はい。私もいつか姉みたいにカタパルトから従魔と一緒に発進したいです」


 藍大が再び脱線してしまうと思ったため、サクラがすぐに藍大の脇腹を突く。


「主、脱線禁止」


「はい。それで、静音と睦月は最初の従魔はもうテイムした?」


 サクラに注意された藍大はすぐに切り替えて真面目な質問を静音と睦月に振り出した。


「しました。私はマンドラボアです。マンドラゴラ系なら強そうなので」


「私は姉から教わったガンドポッドですね。進化した時にモ〇ルアーマーっぽくなると聞いたので迷いませんでした」


「なるほど。もし良かったら、これから2人の従魔を見せてくれない?」


「「わかりました!」」


 藍大から育て方のアドバイスが貰えると期待し、静音と睦月はノータイムで頷いた。


 そして、藍大達は2人の従魔を見るために地下神域に移動した。

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