第910話 坊や、攻撃が単純過ぎるぜ

 午後になって藍大は仲良しトリオと護衛のゲンを連れて道場ダンジョンにやって来た。


 午前は咲夜と両親の初めての従魔をテイムするための時間にしたが、実はブラドに増築していた15階のテスターを頼まれていたのだ。


 午前に茂と今後の日本に関する大事な話をする仲間に入れてもらえなかったこともあり、ゴルゴンとゼルが午後は自分達に付き合えと主張した訳である。


 メロは2人を宥めていたけれど、本心は自分も連れて行ってほしいと顔に書いてあったから藍大は仲良しトリオと一緒に道場ダンジョンのテスターをすることに決めた。


「さあ、午後はアタシ達の時間なんだからねっ」


「偶にはマスターとダンジョンに来ないと腕が鈍るです」


『(。-`ω-)私達のターン』


「わかってるって。午後は夕飯が遅くならない範囲でダンジョン探索を楽しもうな」


 ダンジョン探索を始めようという段階で仲良しトリオは藍大は甘えていた。


 農作業をしたり、子供達と一緒に遊ぶことが日常となりつつある仲良しトリオだけれど、藍大の従魔でもある訳だから当然ダンジョンで活躍したいという気持ちが残っている。


 ゲンは憑依しているだけで積極的に敵を倒そうとしないから連れて来たが、舞とサクラ、リルを連れて来なかったのは仲良しトリオが活躍する場を作るためだ。


 舞とサクラ、リルがいると仲良しトリオの活躍するチャンスが減ってしまうので、藍大は彼女達を満足させることを優先した。


 現に仲良しトリオ、特にゴルゴンは出番が増えるぞとやる気を出している。


 藍大達が早速通路を進んでいくと、両手に棘付きグローブを装着して額にヘッドギアを被ったカンガルーが現れた。


「ルーボクサーLv100。見ての通り、ボクシングを主な攻撃手段にするカンガルーだ」


「爆ぜるのよっ」


 待ちきれなかったゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>を発動し、ルーボクサーが動き出す前に爆発した。


 爆炎が消えた後、ルーボクサーはうずくまるようなポーズで倒れていた。


 それを見てゼルはハッと気づいて表情を作る。


『(;^ω^)ヤムチャしやがって…』


「うん、それ言うと思ってた」


『(*´з`)ここで言わなきゃいつ言うのさ』


「そうだな。狙ってできるもんじゃないしな」


 ゼルがルーボクサーのネタみたいなやられ方をしたときしか言えないだろうと訴えれば、藍大はそれもそうだと納得した。


 そんな藍大とゼルのやり取りを見てゴルゴンはむすっとした表情で藍大に迫る。


「酷いのよっ。倒したのはアタシなのよっ」


「ごめんよ。ルーボクサーが動き出す前に仕留めるなんてゴルゴンはすごいな」


「フ、フンッ。べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ」


『(._.)ツンデレ乙』


 ゴルゴンがテンプレなツンデレを披露すれば、ゼルがノータイムでリアクションした。


「ツンデレじゃないわっ」


「ツンデレです。どこからどう見たってツンデレだったです」


「何を~」


「はいはい。ゴルゴンは落ち着け。さっきのは俺もツンデレだと思ったぞ」


「ぐぬぬ・・・」


 メロに詰め寄ろうとしたゴルゴンだったが、藍大に後ろから抱き締められれば喜んでいた。


 声と合っていない表情を見たメロとゼルは今の状態がゴルゴンの狙った通りだったと知って戦慄した。


「してやられたです」


『( ..)φメモメモ』


 メロとゼルはゴルゴンの手口を覚え、自分もタイミングを見て自分のやり方で藍大に甘えようと決めた。


 それから通路を進んでいく内にルーボクサーが次々に現れるようになった。


「狙い撃つです」


 メロは早撃ち勝負で負けまいと注意していたから、<魔刃弩マジックバリスタ>で敵が現れる度に瞬殺した。


「狡いのよっ。アタシ達の出番も残すのよっ」


『('Д')ヘイヘイヘーイ』


「私達は全員後衛です。接近戦に持ち込まれるのは困るですから、速攻で仕留めるに限るですよ。ね、マスター?」


「メロの言う通りだ。得意な間合いで倒すに越したことはない」


「エヘヘです♪」


 ゴルゴンが策を練って藍大に甘えるならば、メロは自分の早撃ちという持ち味でアピールして褒めてもらうことにしたらしい。


 その目論見が上手くいったメロは藍大に頭を撫でてもらってご機嫌だった。


 ルーボクサーとの戦闘は早い者勝ちになったため、それからは仲良しトリオが競うようにして倒した。


 結果として、ルーボクサーの討伐数はメロが最多でゴルゴンとゼルが同じ数だった。


『(;・∀・)出番下さい』


「しょうがないですね。少し自重するです」


『<m(__)m>あざっす』


 ゼルは自分も藍大にアピールしたいからメロに抑えてくれと頼み、メロもやり過ぎた自覚があったのでペースダウンすることを承諾した。


 しばらく進んでからはルーボクサーが出現しなくなり、その代わりに角と翼、牙を生やした野兎が現れた。


「ヴォルパーティンガーLv100。今度は蹴りと魔法が得意で空も駆けるらしいぞ」


 藍大が特徴を解説するのを聞き、ヴォルパーティンガーはフンスと鼻息を出した。


 ヴォルパーティンガーを見つけられるの満月の夜に若く美しい女性だけのはずだが、ダンジョンにおいてはあまり関係ないらしい。


 しかし、若くて美しい女性が好きなのは事実のようで、そこに混じる藍大の存在を不快に思ったのか次の瞬間には持ち前の跳躍力を活かして藍大達と距離を詰めた。


 藍大を倒してやろうと目論むヴォルパーティンガーだったが、突然目の前に現れた深淵の壁に激突してダメージを負う。


『(-。-)y-゜゜゜坊や、攻撃が単純過ぎるぜ』


 ハードボイルドを意識した顔文字の吹き出しを出しつつ、ゼルは<深淵支配アビスイズマイン>で壁を複数の刃に変えてヴォルパーティンガーを倒すと同時に解体してみせた。


『(´-∀-)=3ドヤッ』


「よしよし。無駄のない見事な迎撃だったぞ」


 ドヤ顔で褒めてほしいとアピールするものだから、藍大はそのリクエストに応じてゼルの頭を撫でた。


 ヴォルパーティンガーは群れる習性があったようで、最初の1体は藍大達を探る斥候だったらしい。


 よくも仲間を倒してくれたなとヴォルパーティンガーの群れが通路の奥からどんどん現れ、藍大達に攻撃を仕掛ける。


「飛んで火にいる夏の虫なんだからねっ」


「1体も通さないです!」


『(-_-メ)我等を倒せると思うな』


 仲良しトリオの迎撃は容易に突破できるものではない。


 いくらLv100だったとしても雑魚モブが仲良しトリオの攻撃を防げるはずもなく、あっけなく返り討ちという結果で終わった。


「マスター、ヴォルパーティンガーの肉は食べられるです?」


「勿論食べられる。ルーボクサーの肉もな。15階の雑魚モブモンスターが食べられるってことは、”掃除屋”かフロアボスは食べられないかもしれない」


 最近のブラドは同じフロアでどのモンスターも食べられないという設定をしない。


 逆に言えば、食べられないモンスターも配置する代わりに食べられるモンスターを必ず配置するとも言える。


 そうしないと食いしん坊ズが自分に抗議するし、その筆頭である舞にハグされるリスクは下げておきたいからブラドが食べられないモンスターだけ配置することを避けている。


 戦利品回収を済ませて先に進めば藍大達は広間に出た。


 そこには狼の体に猫の顔、猪の鼻、山羊の髭、後ろ脚には爬虫類の爪を持つ白いキメラがいた。


 特に特徴的なのは鋸状の角であり、触れれば無傷ではいられないだろう雰囲気を出している。


「あれは”掃除屋”のカロパスLv100。接近戦も魔法系アビリティを使った戦いもできるハイブリッドだ」


「ワニャブォォォン!」


「色々混ざってるのよっ」


「とりあえず動きを鈍らせるです」


 奇妙な鳴き声を披露したカロパスにゴルゴンはツッコミを入れた。


 その一方でメロは冷静に突撃を開始したカロパスの目の前に<停怠円陣スタグサークル>を仕掛け、カロパスは急に止まれなかったせいで思いきり円陣を踏んでしまった。


 それによってカロパスの動きが鈍くなれば、ゴルゴンとゼルが黙っているはずない。


「吹き飛べば良いのよっ」


『(#^^#)合わせるよ』


 ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>でカロパスを爆破した直後、ゼルが<深淵支配アビスイズマイン>で深淵のドームで爆発ごとカロパスを囲んだ。


 2人のコンビネーションによって爆発の衝撃は拡散せずにドーム内に無理やり押し込められ、ゼルがドームを解除した時には瀕死のカロパスの姿があった。


「とどめです」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>で蔓の鞭をカロパスに当てれば、カロパスは”掃除屋”としての責任を果たせず力尽きた。


「勝利なのよっ」


「完封です!」


『(。-`ω-)私達のコンビネーションを思い知ったか』


「みんなお疲れ! コンビネーションの勝利だったな!」


 藍大は仲良しトリオの頑張りを労うべく、順番に彼女達の頭を撫でた。

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