第908話 良いことを教えてやろう。ロマンが絡むだけで他と流れる時間が違うんだ

 咲夜のターンが終わると、次はどちらのターンか決めるべく涼子と智仁がじゃんけんを始める。


「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」


 涼子がグーを出し、智仁がチョキだったため涼子が勝った。


「嘘だろ? ここぞって時に涼子は全てを包み込むパーだって言ってパーを出したのに」


「甘いわ智仁。時代はガッツのグーなのよ」


 (いや、どれもわからんわ)


 両親の間で繰り広げられるじゃんけん論についていけない藍大は苦笑するしかなかった。


「ブラド、次は母さんの番だってさ。サンウルフの召喚を頼むよ」


「心得たのだ」


 ブラドは涼子のためにDPを消費してサンウルフをこの場に召喚した。


 クレセントウルフが額に白い三日月のマークがある黒い狼だったのに対し、サンウルフは額に赤い太陽のマークがある白い狼だった。


「あら可愛い。あっ、凛々しいって言った方が良いのかな?」


「アォン」


 スッと距離を詰めて目の前にやって来た涼子に対し、サンウルフはわかっているじゃないかと言いたげに短く鳴いた。


「母さん、図鑑をサンウルフの頭に優しく被せてテイムして。名付けが終わったら召喚するんだ」


「は~い、テイムするよ~」


 藍大に手順を教わった涼子は気の抜けるような返事をした後、サンウルフの頭の上にビースト図鑑を被せた。


「母さん、名前は雄雌を考慮したものにしなよ?」


「わかってるって。ブラドに召喚してもらった子は雄でしょ? 凛々しいって言われて喜んでたから」


「正解。じゃあ、ソルにする。【召喚サモン:ソル】」


「オン!」


 涼子が名付けてすぐに召喚すれば、ソルが元気に返事をしながら現れた。


「良い子ね。これからよろしく」


「アォン♪」


 涼子に頭を撫でられてソルはご機嫌な様子で返事をした。


 そんなソルを藍大は鑑定していた。



-----------------------------------------

名前:ソル 種族:サンウルフ

性別:雄 Lv:1

-----------------------------------------

HP:30/30

MP:150/150

STR:40

VIT:30

DEX:30

AGI:50

INT:50

LUK:30

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称号:涼子の従魔

アビリティ:<火球ファイアーボール

装備:なし

備考:ご機嫌

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 (リルやルナがクレセントウルフ時代から使えない火属性アビリティだ。サンウルフとクレセントウルフはやっぱり違うんだな)


 ソルのアビリティ欄にある<火球ファイアーボール>の文字を見て、藍大は改めてサンウルフとクレセントウルフの違いを感じた。


 その一方でサクラはソルを撫でる涼子の手を見て戦慄していた。


「お義母様の撫で方が本当に主に似てる。あれは危険」


「そんなに似てる?」


「似てる。主のナデナデスキルはお義母様譲りだった」


「うむ。主君のナデナデは母君譲りに違いないのだ」


 断言するサクラとブラドにそうかと藍大はひとまず納得した。


 自分に撫でられているサクラ達がそう言うのだから、きっとそうなのだろうと思ったのだ。


 涼子がソルと戯れているのをずっと見せつけているのは智仁がかわいそうなので、藍大はブラドに声をかける。


「ブラド、父さんの希望するモンスター達を召喚してもらって良い? 父さんだけパートナーがいないのはかわいそうだ」


「そうであるな。任せるのだ」


 ブラドは智仁を仲間はずれにしないようにするべく、DPを消費してマグネソードマンとマグネソーサラー、マグネシールダーをこの場に召喚した。


「長かった。ロマンを叶える時が遂に来た」


「父さん、大して待ってないだろ? そんな年単位で待ったみたいな表情をしないでよ」


 智仁が楽しみにしていたのはわかるけど、そんなに待たせていないだろうと藍大が言えば、智仁はチッチッチと指を振る。


「良いことを教えてやろう。ロマンが絡むだけで他と流れる時間が違うんだ」


「なるほど」


「主、わかるんだ?」


「思い当たる節があった。ロボットを眺めているといつの間にか時間が経ってることが何度かあった」


「確かにあったね」


 智仁の言い分に理解を示した藍大に対し、サクラは言われてみればと藍大がロボットに目を輝かせたまま固まっていたこともあったと思い出した。


 藍大とサクラが話している間に智仁は3体のモンスターを順番にテイムしていた。


 サクサクとテイムを済ませた智仁はすぐにそれらを召喚する。


「【召喚サモン:アルファード】【召喚サモン:ベータリオン】【召喚サモン:ガンマクス】」


 マグネソードマンのアルファードとマグネソーサラーのベータリオン、マグネシールダーのガンマクスはそれぞれ武器を構えてポーズを決めながら登場した。


 3体はいずれも成人男性の腰ぐらいまでの大きさしかない。


 マグネソードマンは青色がベースの剣士型ロボットであり、マグネソーサラーは赤色がベースの魔術士型ロボット、マグネシールダーは黄色がベースの盾士型ロボットだ。


 それらがポーズを決めて登場すれば、いくら小さくても迫力はあった。


「良いね。実に良い」


「わかる」


 智仁がアルファード達の決めポーズを評価するのに続き、藍大もうんうんとそれを肯定するように頷いた。


「アルファードとベータリオン、ガンマクス、準備は良いか?」


 3体の従魔が自分に対して問題ないと頷いたのを見て、智仁はすぐに呪文を口にした。


「【融合フュージョン:アルファード/ベータリオン/ガンマクス】」


 その瞬間、ダンジョン内を眩い光が包み込んだ。


 光の中でアルファードとベータリオン、ガンマクスのシルエットが重なって一つになる。


 融合した姿のベースは人型というよりは天使型らしく、サイズは一般的な成人男性と同じぐらいになった。


 光が収まって現れたのは紫の剣と緋色の盾を持った青銅色の女型天使をコンセプトにしたロボットだった。


「素晴らしい。ジークルーネと名付けよう」


 ジークルーネと名付けられた従魔は片膝をついて智仁に忠誠を誓うような仕草をした。


 藍大はそれを見てノリの良い従魔だなと思いながらモンスター図鑑で鑑定する。



-----------------------------------------

名前:ジークルーネ 種族:マグネヴァルキリー

性別:なし Lv:5

-----------------------------------------

HP:150/150

MP:200/200

STR:150

VIT:200

DEX:150

AGI:150

INT:150

LUK:150

-----------------------------------------

称号:智仁の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<雷刃サンダーエッジ

装備:エレキソード

   エレキシールド

備考:敬服

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 (ロボットだけあってVITが高めだな)


 ジークルーネの能力値を見て藍大はやはりロボットだと感じた。


 藍大がじーっとジークルーネを観察しているのが気に入らないらしく、手持ち無沙汰なサクラは藍大を抱き締めた。


 藍大に構ってくれなきゃ嫌だと甘えているのだ。


「サクラ、ごめんよ。父さんの言う通りで、ロマンが絡むだけで他と流れる時間が違ったわ」


「主がロボットのことを考えられないぐらいすごいことをしてあげる」


「落ち着こう? こんなところで何をやらかすつもりだい?」


「ということは、夜なら良いんだね? 言質取ったよ」


「しまった・・・」


 藍大はサクラに言質を取られたことに気づいてしてやられたという表情になった。


 いつの間にか涼子と智仁は藍大とサクラのやり取りをニコニコしながら見守っており、藍大はその視線に気づいて恥ずかしくなった。


「こっちを見てないで従魔ともっと仲を深めてくれ」


「涼子さんや、藍大も大人になったねぇ」


「そうだね智仁さん。藍大もすっかり大人になったものよ」


「喧しいわ!」


 藍大が顔を真っ赤にしてツッコむのも仕方のないことである。


 恥ずかしがっている藍大に手を差し伸べるように咲夜が涼子と智仁の前に立つ。


「おじいちゃん、おばあちゃん、パパ、いじめ、ダメ」


「「は~い」」


 可愛い孫に言われたらこれ以上何も言えないので、涼子と智仁はおとなしくなった。


 両親に揶揄われている所を助けてもらった藍大は咲夜の頭を撫でる。


「咲夜、ありがとう。助けてくれて嬉しかったぞ」


「えっへん」


 こうして目的は果たしたので、藍大達はシャングリラダンジョンを出て帰宅した。

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