第907話 咲夜もやっぱり俺の子だわ

 藍大は期待する視線を向ける両親に話しかける。


「それで、2人はどんな従魔が欲しいんだ? 昨日からブラドに相談してたみたいだけど」


「「フッフッフ。よくぞ聞いてくれた」」


「小芝居しなくて良いから。はい、じゃあ母さんから。何が良いの?」


「藍大にはリル君とルナちゃんがいるから、私はサンウルフが欲しいな」


『サンウルフ・・・』


 サンウルフと聞いてリルがピクっと反応した。


 サンウルフは出会った頃のリルと同じクレセントウルフと対をなす存在であり、進化するとスコルになると言われている。


 スコルはクレセントウルフの進化系であるハティの双子の兄弟として知られており、藍大がリルとルナをテイムしているのだから涼子はそれに対抗したくなったらしい。


「リル君は私がサンウルフを従魔にするのは嫌かな?」


『そんなことはないよ。ただ』


「ただ?」


『なんとなくその子がルナをお嫁さんに下さいって言いそうな気がするんだよね』


 (リルがお父さんしてる。感慨深いな)


 展開的にサンウルフをダンジョンで召喚したら雄であり、それが成長してルナに求婚するのではと警戒しているリルは父親らしいなと藍大は頬を緩めた。


「そうだね~。リル君、ルナちゃんのことを考えるとお婿さんはいた方が良いよ。私がしっかり教育するからお婿さん候補にしてくれない?」


『涼子はご主人のお母さんだもんね。だったら、候補として考えるよ』


「ありがと~」


 涼子はリルに感謝の気持ちを伝えるべくその頭を撫でた。


 涼子の希望を聞いた後に藍大は智仁の方を向く。


「父さんはどうする?」


「父さん、ドライザーやエルみたいにロボっぽいモンスターを従魔にしたいんだ。それで、ブラドに聞いたら面白い従魔がいるって教えてくれたからそれが良いな」


「ブラドに何を薦められた?」


「マグネソードマンとマグネソーサラー、マグネシールダー」


 智仁が挙げた3つの種族名を聞いて藍大は智仁が何を望んでいるか理解した。


「融合したいのか」


「Exactly! ロボットと言えば合体! 合体と言えばロボット!」


 智仁は無機型モンスターを融合させたくて仕方ないらしい。


「俺も男だから言いたいことはわかるけど、父さん知ってる? モンスターの融合は一次覚醒じゃできないんだ」


「なん・・・だと・・・」


 智仁は初めて聞いたと言わんばかりに膝から崩れ落ちた。


 折角人形士になれたのに、一次覚醒ではモンスター同士を融合させられないという事実にショックを受けたようだ。


「そんな父さんにアタックチャンス」


 そう言って藍大は亜空間から覚醒の丸薬を取り出した。


「これは?」


「覚醒の丸薬。二次覚醒すると人形士は無機型モンスター同士を融合させられるんだ」


「使わせてくれ!」


「狡い! 私にもちょうだい!」


 智仁だけ贔屓するのは良くないと涼子が掌を突き出し、自分にも覚醒の丸薬をくれと訴えた。


 逢魔家は子供達も含めて少なくとも二次覚醒しているので、藍大は両親だけ一次覚醒のままにするつもりはなかった。


 それゆえ、藍大は涼子と智仁の両方に覚醒の丸薬を渡して2人はすぐにそれを飲み込んだ。


「ということで、準備も整ったし2人の従魔をテイムしに行こうか」


「主、ちょっと待って」


「ん? どうしたサクラ?」


 サクラがシャングリラダンジョンに向かおうとしたところで待ったをかけたため、藍大は何か懸念事項があっただろうかと気になってサクラに訊ねた。


「ついでに咲夜の初めての従魔もこの機会にテイムさせたい」


「早くは・・・ないか。優月にとってのユノみたいに世話係兼パートナーがいても良い頃合いだな」


「うん。私もブラドと相談して候補ももう決めてある」


 サクラは丁度良い機会だからと以前から考えていた咲夜の初めての従魔候補を用意していたらしい。


 咲夜は亜人型モンスターをテイムできる教導士だから、従魔候補になるのは当然亜人型モンスターだ。


 藍大はサクラが咲夜にどんなモンスターを従魔候補にしているのか訊ねる。


「どんなモンスターを候補として考えてるんだ?」


「エサソンだよ」


 エサソンとは小さくて臆病な妖精であり、性格は種族的に善良で面倒見が良いとされている。


「良いんじゃないか。咲夜の遊び相手になってくれるだろうし」


「でしょ? じゃあ、咲夜もダンジョンに連れて行くね」


「わかった」


 シャングリラダンジョンではブラドが特別に召喚するモンスターをテイムするだけなので、藍大は両親とサクラ、咲夜、ブラドを連れて移動した。


 ダンジョンに入ってすぐに藍大はブラドに声をかける。


「ブラド、早速頼むよ。まずは咲夜からで良い? 咲夜が寝ちゃうとテイムできなくなるから」


「異議な~し。私達よりも咲夜優先だよね~」


「勿論だ。孫を優先しない爺ちゃん婆ちゃんはいない」


 涼子も智仁も孫に弱いから、最初にテイムするのは咲夜に決まった。


「では、エサソンから召喚するのだ」


 ブラドは咲夜のためにDPを消費してエサソンをこの場に召喚した。


 エサソンは翅がなくてもふわふわと宙に漂っていた。


 茶髪のおかっぱ頭でメイド服を着ており、サイズは大人の拳ぐらいだった。


「こっち」


「スゥ♡」


 咲夜が手を振っただけでエサソンは咲夜の方に近づいていく。


 エサソンの咲夜を見る目は推しのアイドルを見る目であり、ふらふらと吸い寄せられていくようである。


「テイム」


 咲夜は藍大達が見守る中、無事に図鑑をエサソンに被せてテイムを完了させた。


 藍大というテイマー系冒険者の大先輩が親だから、咲夜は迷うことなく従魔を召喚する。


「【召喚サモン:アンリ】」


 アンリと咲夜が名付けたエサソンを藍大はすぐに鑑定する。



-----------------------------------------

名前:アンリ 種族:エサソン

性別:雌 Lv:1

-----------------------------------------

HP:30/30

MP:200/200

STR:30

VIT:30

DEX:30

AGI:30

INT:30

LUK:30

-----------------------------------------

称号:咲夜の従魔

アビリティ:<不可視手インビジブルハンド

装備:なし

備考:メロメロ

-----------------------------------------



 (目がハートだ。マジで咲夜にメロメロらしいな)


 召喚されたアンリの目はハートになっており、その視線が向かう先は当然の如く咲夜だった。


 咲夜はアンリに好かれたようで、アンリは咲夜の肩に乗って咲夜に頬ずりしている。


「スゥ♡」


「よしよし」


「咲夜もやっぱり俺の子だわ」


「そうだね。主っぽい」


 甘えるアンリの頭を撫でる咲夜の仕草が藍大そっくりであり、藍大とサクラがそれを見て微笑んだ。


「咲夜の口調が藍大に似てるってことは、咲夜は俺に似てるな」


「ちょっと待って。あの撫で方はよく私が藍大の小さい頃にやってあげたものよ。だから、咲夜は私に似てるのよ」


 智仁と涼子が揉めそうな雰囲気になったため、藍大が慌てて2人の間に入る。


「父さんも母さんも落ち着いてくれ。咲夜の前で言い合いは駄目だ」


「主の言う通り。咲夜に喧嘩する姿を見せるのは良くない」


 藍大が一瞬にして自分達の間に入ったから、2人共目を丸くした。


 サクラも藍大に続いて言えば、2人が揉める気配はあっさり消えた。


「藍大、お前ってそんな速く動けたんだなぁ」


「藍大が人間離れしてる~」


「魔神だからな。リルの力を借りて瞬間移動ができるんだよ」


 元々両者共に喧嘩っ早い性格ではなく、藍大の成長を目の当たりにして驚いた。


 それにより、咲夜がどっちに似ているかという問題での言い争いは終結した。


 孫と喋りたい涼子と智仁は話すきっかけができたので笑顔になって話しかける。


「咲夜、私にその子を紹介してほしいな」


「可愛い子だね。咲夜にぴったりな従魔だ」


「うん! アンリ、あいさつ、できる?」


「スゥ! スゥ、スゥ♪」


 アンリは咲夜に言われて涼子と智仁にペコリと頭を下げて挨拶した。


「良い子ね。私は涼子。咲夜のお婆ちゃんだよ」


「俺は智仁。咲夜のお爺ちゃんだ」


「ス、スゥ?」


 涼子と智仁が咲夜にとって祖母、祖父だと聞いてアンリは自分の目を疑った。


 どちらも咲夜の両親だと言われても違和感がない外見だからである。


「ほんとだよ。パパとママ、あっち」


「スゥ」


 藍大とサクラの見た目は涼子と智仁以上に咲夜の両親だと言われて頷けるものだったので、アンリはこれからお世話になりますと藍大達にもぺこりと頭を下げた。


 とりあえず、咲夜の初めてのテイムは無事に完了した。

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