第899話 藍大に質問! 肩叩きでなんでロキに近づけるの?

 準備万端な状態で迎えた翌朝、藍大はシャングリラの地下神域で万物磁石を使った。


 ロキの隠れた場所を探したいと願って使ったことで、万物磁石の針はグルグルと回ってからゆっくりと止まった。


「リル、<知略神祝ブレスオブロキ>の繋がりから何かわかる?」


『やられた。ご主人、ロキの気配が複数の座標から感じられるよ。万物磁石対策をしてたみたい』


 リルが悔しそうに言ったら、サクラが自信に満ちた表情で一歩前に出た。


「それなら私の出番だね」


「サクラ? 一体何をするつもり?」


「デコイのせいで居場所がわかりにくいなら、ロキに不幸が訪れるように仕向けて反応の揺らぎをリルに調べてもらう」


『その手があったね。サクラ、お願い』


「任された」


 サクラは<運命支配フェイトイズマイン>を発動してロキに不幸が訪れるよう強く祈った。


 それから数秒後にリルはピクっと反応した。


『見つけた。伊邪那美様、今から伝える座標に僕達を移動させるゲートを開ける?』


「任せるのじゃ」


 伊邪那美はリルから座標を教えてもらい、神々が神域を移動する時に開くゲートを開いてロキが潜伏する場所と空間を繋げた。


「むぅ、これはロキの仕業じゃな」


「伊邪那美様?」


「すまぬ。ロキの奴にしてやられたのじゃ。妾はこのゲートを維持するのにかかりきりで一緒に行けそうにないのじゃ。ゲートを一度閉じたら二度と開けぬように細工が仕掛けられておるのでな」


「あっちも逃げ切るのに必死だな。わかった。伊邪那美様は俺達の帰りを待っててくれ」


 伊邪那美にそう告げてから、藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、パンドラを連れてロキの潜伏する神域に足を踏み入れた。


 今回パンドラを連れて行く理由は2つある。


 1つ目は鑑定のダブルチェック役である。


 藍大は昨日、思金神に加護を授けてもらって食材以外の鑑定能力も身に着けた。


 それだけでもロキの偽装を看破できるとは思うが、念には念を入れてパンドラにも鑑定してもらうつもりだ。


 2つ目はパンドラが”裁神獣”だからである。


 余計なことをした神をしばきに行くならば、”裁神獣”のパンドラは外せない。


 なお、神獣ではないゲンはいつも通り<絶対守鎧アブソリュートアーマー>で藍大を憑依して守る役割に従事している。


 移動した先は氷でできた街であり、街並みはどれも変わらない形の建物ばかりが並んでいた。


「主、空から街の全体像を見に行こう」


「わかった」


 サクラは藍大が頷くと当然のように藍大をお姫様抱っこして空に飛んで行く。


「サクラさんや、別にお姫様抱っこじゃなくても良いんじゃないかい?」


「主、これはロキを倒す前に必要な手順だよ。主と密着すればするだけ私はパワーアップするから」


 (否定できないところが困るよなぁ)


 サクラの<運命支配フェイトイズマイン>は彼女のLUK依存だ。


 そして、サクラのLUKは∞だけれど藍大と密着して幸福感を味わうことでLUKを上乗せしようと考えている。


 サクラの思考を理解しているからこそ、藍大はされるがままにお姫様抱っこされているのだ。


 ある程度の高度まで上がってから街を見渡してみたが、藍大もサクラも眉間に皺を寄せた。


「どの方角を見ても終わりが見えないな」


「何か仕掛けがあるのかも」


「そうだな。舞達と合流しよう」


「うん」


 神域の端が見えないことから、何か特殊な仕掛けが施されているのだろうと藍大とサクラの見解は一致した。


 地上に戻って舞達と合流したら、真っ先にパンドラが<思金神祝ブレスオブオモイカネ>による鑑定結果を共有しようと藍大に話しかける。


「ご主人、ここはギミック満載の神域だった。一度でも進み方を間違えると、いつの間にかスタート地点に戻るようになってる」


「マジで? 俺も鑑定する。・・・うわぁ、面倒臭いなぁ」


 藍大が鑑定した結果もパンドラと同じだったから、藍大はうんざりした顔になった。


 そんな藍大を励まそうとリルが声をかける。


『ご主人、元気出して。幸い、僕の鼻でロキの位置は掴めてるよ。後はそこに辿り着けさえすれば大丈夫』


「よしよし。ありがとな。気になるのは狡賢いロキがただ待ってるってあり得るかって話だ」


「ないと思う」


「あり得ない」


『絶対にないよ』


「同じく」


『ない』


 ゲンですらロキが何か企んでいると考えているのだから、それはもう確実に何か起きるだろう。


 藍大がどうやって進むか考えているところで、リルが自分の意見を藍大に伝える。


『ご主人、僕は最短経路で進むといつまで経っても目的地に着かない展開になると思う。僕が嗅覚でロキの居場所を突き止めることをロキも予想してるだろうから、最短距離で来るのを阻止するんじゃないかな』


「一理ある。リル対策の一環でそれぐらいやりそうだよな」


「それなら方違えをしてみるのはどう?」


 リルと藍大が話しているところにパンドラが加わった。


「方違<かたたが>えか。それならロキの狙いを躱してロキに近づけそうだな」


「藍大に質問! でなんでロキに近づけるの?」


「舞、肩叩きじゃなくて方違えだよ。外出の際にその方角の吉凶を占い、その方角が悪いと一旦別の方向に出かけて目的地の方角が悪い方角にならないようにする平安時代以降の風習だよ」


「平安時代の人ってそんな面倒なことをしてたんだね~。方角が悪くても大抵殴ればなんとかなるのに」


 (平安時代の人達は舞みたいにパワフルじゃないんだ)


 藍大は舞の発言を受けてそのようなことを思いながら苦笑した。


 藍大が口に出さずにいたのに対し、サクラはそんな配慮をしない。


「平安時代の人は舞みたいに脳筋じゃない」


「むぅ。解決できるならそれで良いじゃん」


「解決できてもその過程や後始末を考えるべき」


「わかった。だったら今試してみようよ。リル君、ロキはどっちの方向にいるの?」


 何か閃いたらしい舞はリルにロキのいる方角を訊ねた。


『ここから2時の方向だよ』


「そうなんだ。それじゃあ・・・、オラァ!」


 急に戦闘モードに入った舞が雷光を纏わせたミョルニルを2時の方向に向けて投擲した。


 ミョルニルが氷の建物を貫通していく音が連続して聞こえ、舞の手元にミョルニルが戻って来た時には2時の方向にある建物がいくつも倒壊した。


 しかし、数秒後には壊れたはずの建物が光るのと同時に元通りになった。


「リル対策に続いて舞対策までやってるのか。ロキが本気で準備してるあたり、方違えで確実に進むのが良さそうだ」


『そうだね。ところでご主人、どうやって方角の吉凶を占うの?』


「そこは私に任せてもらう」


『そっか。サクラが進む方角を決めれば悪い方角になんか行かないよね』


「その通り」


 リルが納得した表情になるのを見てサクラはドヤ顔になった。


 早速、リルの示す場所を目指してサクラの感覚で進む方角を決めるから移動を始める。


 進んで十字路になる度に何か目印になる物を置くことも考えたが、試しに置いたがらくたが地面に触れた瞬間から消えてしまったためその作戦はできなくなった。


 方違えでロキに接近することはできたとしても、ミスしたら最初からやり直す際に次のチャレンジのための準備はさせてもらえないようだ。


 サクラはミスしなければどうということはないと言って迷いなく進む方向を決め、藍大達はそれに付いて行く。


 その結果、10回道を曲がった所で見るからにお邪魔キャラである存在と遭遇した。


「失せろゴラァ!」


 サクラが<十億透腕ビリオンアームズ>でそれの動きを封じるであろうことを予想し、舞が雷光を纏わせたミョルニルでフルスイングした。


「べごば!?」


 変な悲鳴を上げてそれは爆散した。


「量産型ロキ=レプリカって何? あれがまだまだいるの?」


『ロキは本当に僕達を不快にさせるのが得意だよね』


「というかロキには配下っていないの? 量産した自分のレプリカしかいないなんて寂しい神だね」


 パンドラの疑問を聞いて藍大はロキの配下としてフェンリルとミドガルズオルム、ヘルを思い浮かべた。


 もっとも、ロキが気に入っているフェンリルはリルであり、そのリルは藍大の従魔だからロキに味方することはあり得ない。


 ミドガルズオルムもシャングリラダンジョン地下16階のフロアボス以外で目撃された試しはない。


 残るヘルはまだ見たことがないから、もしかするとこの先に出て来る可能性はある。


 それから量産型ロキ=レプリカは角を曲がる度に出て来るようになったが、量産型では藍大達の動きを止めることなんてできない。


 藍大達は30回曲がった十字路の先に顔を引き攣らせているロキを見つけた。

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