第897話 ゴッドスレイヤーはやはり普段使いさせられないのじゃ

 ゴッドスレイヤーが手元に戻ってきた後、藍大達は門の中に入った。


 門の中はどことなくシャングリラリゾートに似た場所だった。


「シャングリラリゾートみたいだね~」


『天国にも美味しい物はあるかな?』


「落ち着くのじゃ。魂は食べることも寝ることも不要じゃから飲食店は天国にないぞよ」


「そっかぁ」


『残念だね』


 シャングリラリゾートに似た雰囲気の天国ならグルメな観光ができるのではと考えたようだが、伊邪那美に否定されて舞もリルもしょんぼりした。


 そこに白い礼装に身を包んだ金髪碧眼の中性的な天使が現れる。


「魔神様、それにお連れの皆様もようこそおいで下さいました」


「天使か。天国を案内でもしてくれるのか?」


「私のことはミカとお呼び下さい。創世神様から魔神様方に天国を案内せよと申し付けられております」


 (ミカエルじゃなくてミカ? いや、話が長くなるのは面倒だからスルーしよう)


 藍大はミカが有名なあの天使なのではと思ったけれど、わざと呼び方をミカに指定しているのだろうと思って放置することにした。


『藍大、ミカに天国の案内を任せたから上手く活用してね。それと、ミカは藍大が想像してる天使そのものだよ』


(マキナ様、ありがとう。なんで彼は略して呼ばせようとするの?)


『あぁ、天使って性別が定まってないんだ。自分のことをミカって呼ばせようってするんなら、それはミカが藍大に女性として見てほしいってことなんじゃないかな』


 (舞とサクラの前でそんなアピールされても困るんだけど)


『そんなこと言われても、天使にだって感情があるんだから完璧にそれを押し殺すのは無理なんじゃないかな。一応、私の方からも釘を刺しておくから間違っても誘惑しちゃ駄目だよ?』


 (しないってば)


 藍大はデウス=エクス=マキナとテレパシーでやり取りした後、ニコニコしているミカの顔を見た。


 一瞬視線を逸らしていた間に中性的だった顔は女性寄りになっており、藍大はツッコんだら負けだと思ってスルーした。


「ミカ、天国のどこかに悪樓の本体が潜んでる可能性がある。心当たりのある場所はないか?」


「悪樓の本体はどれぐらいの大きさなんでしょうか? と言いますのも、天国は皆様のご想像よりも狭い場所です。善人の魂が輪廻の輪に戻る前の待合室のような場所ですから、居座られることもないようにある程度楽しんでいただいたら旅立ってもらえる程度のサイズでしかありません」


「本体のサイズまではわからないが、さっき倒した分体は一般的な二階建ての一軒家よりも大きかった」


「そのサイズとなりますと、天国の建物では収まりそうにありません。天国から亜空間を開いて身を潜めてるとするならば、転送門付近でしょうね。あの辺りは過去に輪廻の輪に戻るのを嫌がった魂が用意したと言われる亜空間が隠されてると訊きますので」


 ミカは藍大の話を聞いてそこしか考えられないと思った場所を告げた。


 その話を聞いてリルは疑問をミカにぶつける。


『ねえ、その亜空間をミカ達天使は探したりしないの?』


「勿論探しました。ですが、私共には探知できませんでした。いくら特殊な力を持ってたとしても、人間に後れを取るような私共ではございません。おそらくですが、どこかの神が手を引いてるのではないかと存じます」


『ロキ様がやったに一票』


「だろうな。天使を欺いて悪樓を匿うなんて芸当もロキ様ならやれそうだし、理由はわからないけど流れからして十分にあり得る」


 リルの意見に藍大は賛同した。


 とりあえず、藍大達はミカの案内で転送門に案内された。


 転送門は渦巻く亜空間に繋がるゲートらしいが、今は起動しておらず両側に柱があるだけだった。


 周辺は広場になっており、輪廻の輪に善人の魂が戻る時は順番にゲートの中に入ってもらう運用になっている。


「リル、亜空間の場所を探せる?」


『ばっちりだよ。僕にかかればもう怪しい場所なんてここしかないってビビッと来たもん』


 リルは得意気に怪しい場所を見つめながらそう言った。


 リルの視線の先に遭ったのは転送門の2本の柱の間だった。


「転送門に亜空間があるんですか?」


『うん。今からそれをこじ開けるよ』


 リルはそのまま<風神狼魂ソウルオブリル>を発動した。


 その結果、リルの咆哮によって強制的に亜空間が開かれてその中から慌てて悪樓が飛び出して来た。


 悪樓の大きさは学校の体育館ぐらいあり、その表情は遂に見つかってしまったと覚悟を決めていた。


「ミカ、ここに魂が近寄らないようにしてくれ。あいつが悪人の魂しか食わないとは限らないから」


「ご安心を。私が魔神様方と合流した時点で本日は魂の外出禁止令が出ておりますので」


「仕事ができるね」


「恐れ入ります」


 善人の魂を無差別に喰らって悪樓がパワーアップを狙う展開は避けたいと思って藍大は言ったのだが、ミカは既にその手配をしていた。


 これには藍大も素晴らしいとミカの用意周到さに感心した。


「主、地上で暴れられたら困るから空で戦おう」


「そうだな。舞とリルは騎乗戦闘。俺とサクラ、伊邪那美様は後方からの攻撃で」


 藍大が最近ではお馴染みのフォーメーションを指示すれば、舞はリルに飛び乗って悪樓を迎え撃つ。


「ぶっ飛べ!」


「ギョギョ!?」


 雷光を纏わせたミョルニルで腹を殴られたことにより、悪樓は上空に飛ばされた。


『攻撃はまだまだ続くよ』


「オラオラオラァ!」


 悪樓が飛ばされた方向にリルが先回りし、舞が殴りつけることを繰り返す。


 そんな攻撃をされたせいで悪樓はただのサンドバッグのように殴られる一方である。


「私も攻撃をサポートする」


 サクラは藍大を抱えつつ、<十億透腕ビリオンアームズ>で悪樓の動きを封じ込める。


 それによって悪樓は吹き飛ばされるサンドバッグから固定されたサンドバッグへと変わる。


 ガンガンHPが削られていき、悪樓が反抗する気力を失ったところで藍大はゴッドスレイヤーを大太刀の姿に変える。


 サクラが藍大を抱きながら悪樓に近づき、藍大はゴッドスレイヤーを振り抜いて悪樓の体を一刀両断した。


「ギョギョォォォォォォォォォォ!」


 舞の攻撃が効いていない訳ではなかったが、ゴッドスレイヤーに斬られた悪樓の苦しみ方は並々ならぬものだった。


 今までに喰らった魂によって舞の攻撃で受けたダメージを回復していたけれど、藍大に攻撃されたダメージは回復できなかった。


 切断された体はくっつかず、悪樓はそのまま力尽きてしまった。


『おめでとうございます。逢魔藍大一行が悪神の悪樓を倒しました』


『報酬として思金神が完全復活しました』


『思金神が復活したことにより、シャングリラの地下神域にある神社に図書館が増設されました』


 (思金神がやっと復活したか)


 伊邪那美のアナウンスを聞き、藍大は思金神が復活したことを知った。


 思金神は今までの神と違って力の取り戻し方に癖があり、藍大が保護した他の神々に比べて力を取り戻すのに時間を要していた。


 ところが、悪樓を倒した報酬で一気に思金神が復活できたのでようやくこの時が来たとホッとしたのだ。


 悪樓との戦闘が終わり、伊邪那美はポツリと感想を漏らす。


「ゴッドスレイヤーはやはり普段使いさせられないのじゃ」


 舞とサクラ、リルによって身動きが取れないようにお膳立てされていたが、近接職ではない藍大が悪樓を簡単に一刀両断して倒せる神器は危険だから普段使いさせたくない。


 加えて言うならば、ゴッドスレイヤーは悪樓の力を一部コピーしたせいで斬った相手から力を奪って使用者の能力値を底上げできるようになっていた。


 藍大が力に溺れることは考えられないけれど、他の神々が藍大を警戒して摩擦が起きるようなことは避けたい。


 それゆえ、伊邪那美は戦闘を終えた藍大に近寄る。


「藍大、ゴッドスレイヤーを封印させてもらうのじゃ」


「そうだな。悪樓を斬っただけで俺の能力値が上がった実感がある。不要不急の時は封印しておくのが良さそうだ」


「うむ。藍大が聞き分けの良い子で助かるのじゃ」


 伊邪那美は藍大の許可を得た後、ゴッドスレイヤーをシャングリラの地下神域の神殿に転送して封印した。


「主が強くなることは良いことなのに」


「妾も藍大自身が強いと安心できるのじゃが、他所にいる藍大とそこまで親しくない神にとっては脅威にとして目に映るじゃろう。不要な争いを未然に防ぐためには必要だと理解してほしいのじゃ」


「・・・わかった」


 サクラは伊邪那美に言われてしぶしぶ頷いた。


 悪樓を倒すのに地獄を一周して天国まで来たから半日かかっており、敵対する神を完全に倒すには少なくとも半日はかかると思えば、そんなことに時間を費やしたくないと思ったのだろう。


 それから、倒した悪樓はデウス=エクス=マキナによって回収され、藍大達は昼食を取るためにシャングリラに帰還した。

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